第4話 捜査本部

 とりあえず、初動捜査としての体裁を取り繕ったところで、二人の刑事は、その場を制服警官に任せて、鑑識と一緒に署の方に戻った。

 K警察署というところは、F署ほど大きくもないが、県庁所在地の隣の警察署としては、立派すぎるくらいの警察署の本部を持っていた。

 数年前に、

「老朽化」

 を理由に建て直す計画が持ち上がり、やっと昨年完成した、出来立てほやほやの警察署で、

「日本でも、一番新しい警察署だ」

 ということで、居心地の良さを感じていた。

 しかし、昔からの馴染みのベテラン警察官は、

「昔がよかったな。これじゃあ、あまり面白くない」

 というのが本音のようで、

「電車の駅だって、新幹線が開通するといって建て替わってみると、結果、寂しい街並みが露呈したというだけになりはしないか?」

 ということであった。

 だが、警察署としては、まるで化石のごとくの警察署だったので、新しくなった警察署では、若い連中は、喜んでいた。

「昔のカビの生えたような庁舎は、恥ずかしくて。写真にも撮れないや」

 といっている、若い連中もいて、

「K警察への赴任というと、貧乏くじを引いたようなものだ」

 といっているのと同じである。

 実際に、K警察は、それほど凶悪な事件が起こることはそれほどなかった。殺人事件も近隣の警察署から比べれば、圧倒的に少なかった。今回のように、いきなり起こった犯罪に、皆対応できるのか、甚だ疑問だったのだ。

 そんなK警察内に、捜査本部ができるというのは、本当に稀なことで、経験本部の刑事が出張ってくることになるのだろうが、どれほどの緊張感になるのかということは、未知数であった。

「ここに捜査本部が置かれるのって、何年ぶりなんだろうな?」

 というと、少し年配の刑事が、

「そうだなぁ。5年ぶり以上であることには間違いないじゃろう」

 というと、

「また、県警本部からの運転手や、小間使いをさせられることになるんだろうか?」

 と、一人がいうと、

「しょうがないだろう」

 と言われた方は、深いため息をついて、

「あぁあ」

 と、露骨に嫌な顔をしている。

 県警本部の連中の前では絶対にできない顔だった。

「戒名くらいは決められるんでしょう?」

 というので、

「そうだな。適当につけておけばいいんじゃないか?」

 というので、

「河川敷会社事務所殺人事件」

 になった。

 それを聴いた他の刑事が、

「あの事務所って、あの河川敷の中にあるんだな?」

 と聞かれ、

「ええ、あそこは、河川敷にできた事務所ビルが多いので、逆に似たビルもあったりするんですよ。面白い、特徴ですね」

 というのだった。

 まだ、捜査本部ができるということは決定しているが、県警から刑事はやってきていない。

「どうせ俺たちは、運転手や、案内役くらいしかさせてもらえないんだろうな?」

 と思っている刑事もさぞや多いだろう。

 どうしても、刑事ドラマなどを見ていると、

「支店は、本店には頭が上がらないものだ」

 ということになる。

「事件は会議室で起きているんじゃない」

 と叫んだ、昔のトレンディドラマに引っ張りだこだった、目薬のCMで有名なあの俳優に、今は亡き、かつてのコメディグループ五人組のリーダーだった。

「ダメだこりゃあ」

「次行ってみよう」

 という言葉が有名だった、あの俳優。

 さらには、かつては、ストリートミュージシャンの走りで、

「そいやぁ、そいやぁ、それそれ」

 という歌の文句が一世を風靡した(笑)例の俳優などの猛者が出演していたあの刑事ドラマを見ていた人は、きっとそう思うことだろう。

 どこまでが本当なのかむずかしいところであるが、

「刑事にも人それぞれ」

 ということであろう。

 ただ、

「本店、支店」

 という考えは、戦後すぐくらいからあったようで、ひょっとすると、昔の方がもっと露骨だったのかも知れない。

 何しろ、戦時中の警察というと、

「泣く子も黙る、特高警察」

 などと言われた時代があったくらいだからである。

 戦時中の警察というのは、基本的には、

「政府の犬」

 とでもいえばいいのか、

「治安維持法」

 という法律に守られて、警察は、完全に、国家に対して不満不平をいう分子を見つけ出して、処罰するという役目があった。

 それは、基本的には特高警察というものであろうが、普通の警察も、例えば、

「戦争に反対している人間を見つけ出して、拷問に掛け、政府のいうことを、身体に刻むというような形でのいたぶり」

 であった。

 今も昔も警察というと、どうしても、

「政府の犬」

 なのであろう。

 警察官というのは、キャリア組になると、官僚ということになるので、それも仕方がない。

 そして、完全な縦割り社会なので、官僚であるキャリア組に、ノンキャリの、現場の人間との確執が生まれるのも仕方がない。

 そのため、ノンキャリの間で、歪な関係が生まれてきて、それが、いわゆる、

「縄張り争い」

 ということになるのだろう。

「本店と支店」

「支店と支店同士」

 それぞれに確執があり、横同士でも、いがみ合っているといってもいいだろう。

 そういう意味で、警察という組織は、この戦後からの75年以上も経っているのに、まったく成長していないということで、あのような警察組織を皮肉ったドラマが生まれ、それが、一世を風靡し、

「警察というのは、ああいうところなんだ」

 と言われるようになった。

 特に警察は、一種の、

「お役所仕事」

 であり、結果、

「何か事件が起こらないと、警察は決して動こうとはしない」

 ということになるのだった。

 まだ、本店から来ないのをいいことに、所轄だけでの捜査会議をすることになった。

 参加するのは、初動捜査に入っていた、

「桜井警部補」

 と、

「辰巳刑事」、

 そして、

「清水警部」

 の三人だった。

 あまりたくさんの刑事が集まってしまうと、後で、本店との会議の時に、変なことを告げ口しないとも限らないということと、とりあえずの会議だということからのものであった。

「今回の事件ですが、被害者を今捜査しているんですが、すぐに身元が割れるのではないかと思ったんですが、そうでもないようなんです」

 と、一番若い辰巳刑事が言った。

「どういうことだい?」

 と、桜井警部補が聞くと、清水警部も聞き耳を立てていたが、

「今回の被害者の写真を、今回出社してきた人に見せたんです。ご存じのように、一般社員は、ほとんどがリモートワークで出社していないので、出社している人だけだったんですが、基本的に昨日は金曜日ということもあって、全部の会社の総務の人は出社してきていました。その人たち全員に見せたんですが、分からないといわれたんです。少なくとも、自分たちの会社の社員ではないということでしたね」

 と、辰巳刑事はいうのだった。

「ん? じゃあ、今回の被害者は、このビルの関係者ではないかも知れないということか?」

 と、桜井警部補がそういうと、

「そうなのかも知れないとも感じているんですよ。もちろん、全員に確認を取ったわけではないので、まったく関係のない人ということではないのかも知れませんけどね」

 と辰巳刑事は答えた。

「ところで、あのビルというのは、一つのフロアが小さかったように思うんだが、会社は皆、一つのフロアに一つの会社ということなのかな?」

 と桜井警部補が聞くと、

「そうですね。地上5階建てのビルなんですが、4、5階は、それぞれの会社なんですが、6、7階は同じ会社で、それぞれの、管理部と、営業部が入っているようです。同じ会社ということではありますが、本人たちは、別会社の意識のようでしたね」

 と辰巳刑事がいう。

 このビルは、変則な建て方をしているので、3階からが地上という認識もできるので、地下二階を一階と考えると、七階建てのビルと言えるのだった。

 さらに、辰巳刑事のいうように、他のビルでも、管理部と営業部が違うフロアという雑居ビルに入っている会社も少なくない。そういう意味で、彼らの言う、

「別会社の意識」

 というのも、無理もないかも知れない。

 営業所のようなところでも、管理部、物流部、営業部と仲が悪いのは分かり切っていることだ。

 そもそも警察だってそうではないか。

「捜査一課と二課、さらには、生活安全課や、マルボーなどでも、決して仲がいいとはいえない。交通課にしてもそうだ。やはり、警察というのは、お役所仕事だといってもいいのではないか」

 と誰もが思っていることであろう。

 そういう意味では、あのビルは、エレベーターに偶然でもない限り乗り合わせなければ、他の会社の人と会うこともない。それを思うと、このビルは、

「いい建て方をしている」

 といってもいいのではないだろうか?

 すると、今度は桜井警部補が思い出したように、

「そういえば、あのビルの入り口のすぐ横に、ほか弁屋があったじゃないか? あそこは、このビルとは関係がないのかい?」

 と、言うのだった。

「ああ、そこに関してはまだ話を聞いていませんでしたね。ただ、少なくとも、警備の機械の中には、ほか弁屋の部屋の警備はなかったと思うので、違うのではないかと思いますが、今度行った時に確認しておきましょう」

 ということだった。

「なるほど、とにかく、隣にはほか弁屋があるということだね?」

 と、清水警部に聞かれて、

「ええ、そういうことになりますね」

 と、辰巳刑事は答えた。

 それを聞きながら、桜井警部補は考えていた。

「辰巳刑事のいうように、ほか弁屋が、警備に関係のないところにあるということは、何か、今回の事件に関係しているということだろうか?」

 と、口には出さなかったが、ちょっと気になるところであったのだ。

 桜井警部補は、今のことを伏せておいて、

「ということは、あのビルにはテナントとして、2階の歯医者、そして、3、4階のそれぞれの会社、そして4、5階を一つの会社と考えると、4つの会社があるということですね? まあ、歯医者は会社ではないが、法人ということで、とりあえず、会社ということにしておくが」

 というと、

「ええ、そういうことになります。そこに、ほか弁屋が関わるかどうかは別にしてですね」

 ということであった。

 ところで、他の会社は、どういう会社なんだい?」

 と桜井警部補が聞くと、

「まず、3階の会社なんですが、外食チェーンのファーストフード関係の事務所らしいです。地域に一つある事務所の一つだそうで、そのチェーンの、約30店舗をあの事務所で見ているらしいんですよ」

 と、辰巳刑事が言った。

「じゃあ、4階は?」

「4階はですね。地元の情報雑誌を刊行している、編集者だそうです。桜井警部補は、本屋で、月刊Fという雑誌をご覧になったこと、ありませんか?」

 と聞かれ。

「ああ、見たことあるよ。コンビニにも売っているやつだろう? グルメの店だったり、毎回、地区を決めて、そこの芸術的な店などを紹介するページがあったりするんだよな。うちの女房が時々買ってきて、どこかに連れて行けってうるさい時期があったのを思い出すよ」

 といって、苦笑いを桜井警部補はしたのだった。

「そうなんですよ。ただですね。あの会社がこのビルに入ってきたのが、ちょうど一年くらい前だったらしいんですが、実は、半分しか入れなかったらしいんです」

 と言い出した。

「ん? それはどういうことかな?」

 と桜井警部補が聞きなおすと、

「あの会社は、営業部と、編集部があって、ちょうど同じくらいの人数だったので、とても、全部が入り切るのは難しく。ちょうど、隣に、同じような構造のビルがあるということで、そっちの事務所を借りることで、うまく入れたということなんですよ。ちょうど、それぞれ、一つづつ空きがあったんでしょうね」

 と辰巳刑事がいうと、

「いくら隣とはいえ、離れていて、仕事が不便ではないのかな?」

 と桜井警部補がいうと、

「そんなことはないようなんです。そもそも、どこの会社でもなんですが、別部署と仲がよくなかったりするのは、普通にあることなので、別のビルの方が、せいせいするというのが本音のようです。そういう意味でも、上の階の会社にも同じことが言えるのかも知れないですね」

 と辰巳刑事は、どこか勝ち誇ったような顔でいうのだった。

「なるほど、昔の標語にあった「亭主元気で留守がいい」という言葉を思い出させるような感じだな」

 といって笑うと、

「何ですか? それ」

 と、真剣に知らなかったのか、微笑み交じりで、藁っていいものかどうなのか、複雑な顔で、とりあえず笑っている、辰巳刑事がいたのだ。

 それにしても、警察だって。部署によって仲が悪いだけに、他の会社は、

「警察ほどじゃないだろうな」

 と思ったとしても、無理もないことだった。

「これって、皮肉なのか何なのか?」

 と、辰巳刑事は苦笑いをするしかなかった。

 そんな話をしていると、県警本部から捜査本部に派遣されてきたメンバーを含めての捜査会議となった。

 今回の本部長は、K署出身である門倉警部であった。

 門倉警部と、清水警部は、数十年前は、

「絶妙コンビ」

 と言われた二人で、その実力は、F県警中に知られていた。

 それだけに、この二人の再結成は、一種の注目だったのだ。

 K市は、今でこそ、ある程度平和な街にあったが、門倉、清水両刑事が第一線で活躍の頃は、他の警察と変わらないくらいの犯罪があった。この二人の活躍が、今のK署の治安の良さを作ったといっても過言ではないかも知れない。

 それを思うと、今回の捜査本部は、ある程度平和な捜査本部になりそうな予感があった。

 ただ、さすがに最初の会議は、緊張に溢れていた。他から見ても、

「いかにも刑事ドラマで見られるような緊張感が漲っている」

 という感覚だったが、それは当然のことであり、初動捜査を県警から来た刑事たちが、注目を持って見るのは当たり前のことである。

 淡々と進む報告を聞きながら、メモに余念のない県警の刑事たちであったが、報告を聞きながら、いろいろと疑念を抱いている刑事もいたようで、時々、話を遮るようにして話に割って入る刑事がいた。

 名前を日下刑事というが、後で聞くと、門倉警部の一押しのようで、清水警部から見ての、桜井警部補のような存在であった。

「一つ気になったのですが、隣にほか弁屋があるということでしたが、そこの従業員にも、被害者の写真を見せたんですか?」

 と聞かれた辰巳刑事は、

「ええ、見せましたよ。でも、誰も知らないということでした。特にほか弁屋の店員は、外人がほとんどなので、皆片言の日本語でしたね」

 と答えたのだ。

 これは、数年前から、ほとんどがそうなのだが、コンビニであったり、ファーストフードの店員には、外人を使うことが多く、特にと雲南アジア系の留学生という名目で入国している連中が多い。

 それは、国のインバウンドや留学生を受け入れるという方針から、雇わなければいけないということであったり、外人一人につき、いくらということで雇っているようで、最近でこそ、問題はないが、最初の頃はロクなことがなかったようだ。

 言葉の壁であったり、習慣の違いはいかんともしがたく、ひどいやつなどでは、

「トイレの遣い方も知らない」

 などという、とんでもないやつがいたりして、トイレに、

「使用方法」

 なる絵による解説を、数か国語、しかも、見慣れない国の言葉で書かれていた。

「世も末だな」

 と思った人も結構いるのではないだろうか?

 実際に、今中年くらいの人であれば、

「昔だったら、ブラジルからの労働者が多かったが、彼らは真面目で、真剣に日本社会に溶け込もうと必死だったが、今の連中の東南アジア系の連中ときたら」

 といって、嘆いている人も多いことだろう。

 今でこそ、

「世界的なパンデミック」

 のおかげで、外人の流入が減ってきたが、どうにも外人連中が、街に蔓延っているのを見るのは忍びない。

 どうしても、日本が島国で、単一民族だったという、しょうがない面も大きいに違いないが、昔のブラジルの人たちの爪の垢でも煎じて飲んでもらいたいくらいだった。

 日下刑事が納得したのかどうかは分からないが、他にもいくつか気になった部分はあったようだが、それは、あくまでも、

「ところどころで確認をしたい」

 という程度のことで、時間を取るほどではなかった。

「これが、日下刑事という人のやり方なんだな」

 と思えば、イラっと来ることもなく、受け流す程度に考えるのであった。

 ある程度の報告が終わった中で、門倉警部が話始めた。

「今回の事件の今のところの、急務となるのは、被害者の身元を明らかにすることでしょうね。まずそこがハッキリしないと、捜査は進展しないでしょう。それと平行して、今の捜査、つまり、目撃者探しや聞き込みなどの、地道な捜査を行うことだと思います。ところで、鑑識からの報告はどうなっているのかね?」

 と聞かれた、辰巳刑事は、

「はい、最初の初検と、ほぼ変わりないものでした。死因は、胸に刺さっていたナイフによる出血多量によるショック死ですね。死亡推定時刻は、深夜の0時前後、ビルのテナントは、ほとんどの会社が、9時くらいまでには退社するということですので、ほぼ毎日最後までいるのは、ほか弁屋さんだということです。ほか弁屋も、午後11時までが営業時間ですので、基本11時10分くらいまでには、ビルを出るということです。その後の犯行には間違いないでしょうから、鑑識の報告とも辻褄が合っています。そして、その日の警備の記録を見ると、他の会社も、犯行当日は、午後九時までに退社していることは分かっています。玄関の扉も、カギが掛かっていましたから、そこから入るのは、無理だったようですね」

 という報告を行った。

「なるほど、分かりました。今の話を聞いている限りでは、別におかしなところはないということですね? ということは、やはり、被害者の身元というのが、ポイントなのかも知れないですね。それが分からないと、動機も犯人像も、そして、被害者がなぜ、あんなところで殺されたのかというのも分からないからね。一応、被害者は、衝動的に殺されたということであるが、怨恨説も決してなくしてはいけないと思うんだ。なぜなら、犯人が、凶器のナイフを、最初から手に持っていたという理屈が成り立たないからね。そうでなければ、衝動的に殺されたというわけではないわけだし、ナイフは隠し持っていたのだとすれば、ナイフを出してまで、殺さなければいけないとすれば、怨恨か、見られてはいけない何かを見られたということになるだろうから、そのあたりも突き詰める必要があるんじゃないかな?」

 と、門倉警部は言った。

 それに関しては、清水警部を始め、K署の連中では思ってもいなかったようだ。

 それを考えると。

「さすが、門倉警部」

 と、清水警部も、一目置いたのであり、心の中で、昔、門倉警部の下で、走り回っていた自分を想い出していたことだろう。

 清水警部も、警部に昇進したのは、最近のことだった。

 門倉警部が、

「県警本部に栄転」

 というのが決まった時、清水警部補も、同時に警部に昇進し。そのまま、門倉警部のいたポジションに上がったのだ。

 捜査一課を取り仕切る警部として、その立場を顕著なものとしたのだった。

 とにかく、初回の捜査本部の報告としては、それほどまだハッキリとしたことがわかっていない状態だった。

 初動捜査における捜査報告と、それに付随した聞き込みによる裏付け程度のことがわかってというだけで、

「まあ、もっとも、最初の捜査本部ができてすぐの捜査会議など、どこも似たり寄ったりで、こんなものに違いない」

 とは、皆感じていたことだろう。

 捜査に関しての、直接の指揮は、清水警部が取るようで、ペアの決め方、捜査方法などについては、清水警部の指示であった。

「まあ、こんな感じで行きますので、皆さん、それぞれよろしくお願いいたします」

 といって、

「はい」

 という元気な声とともに、やっと捜査の第一段階に進むことになった。

 県警本部の刑事は、皆威張り散らしていて、

「俺たちは、ただの駒にしか過ぎないんだ」

 とほとんどの、K警察の刑事は思っていたようだが、実際にはそうでもなかった。

 それは、門倉警部の教育が行き届いているからなのか、それとも、最近の警察は、

「縦割り社会を少しでも何とかしよう」

 という意識があるのか、それほど、威張っていることもないようだった。

「たぶん、その両方なんだろうな」

 と、それぞれの刑事は思った。

 とにかく、捜査に、

「不協和音」

 を取り込むのは、お互いに嫌である。

 一枚の殻を破るだけで、捜査本部としていい関係が保てるのであれば、それはそれでいいことなのだろう」

 と、皆思っていた。

 特に辰巳刑事はそう思っているようで、辰巳刑事のように、どちらかというと、

「猪突猛進型」

 というのは、大いに問題があるのではないかと考えられたのだ。

 特に、県警本部の日下刑事のような人とは、

「犬猿の仲」

 ではないかと思われていたが、それを敢えてペアにした清水警部であったが、きっとそこには、大いに、門倉警部の考えがあったからではないだろうか。

 門倉警部がK署にいた頃、

「若手のエース」

 として、メキメキと頭角を現してきたのが、辰巳刑事であった。

 辰巳刑事が、猪突猛進であることは、門倉警部も百も承知であった。

 門倉警部から、清水警部補、そしてまだ刑事だった桜井刑事。さらにその下にいたのが、辰巳刑事であった。

 この縦のラインは、まるで、野球でいうところの、キャッチャーからセカンド、センターに至る、

「センターライン」「

 と同じものだったのだ。

 これが、K署の強みであり、ある意味犯罪が起こる土台ではなかったのは、

「このラインがあったからではないか?」

 と言われるほどだったが、普通に考えて、

「そんなことはありえない」

 という、ただの伝説にすぎなかったのであった。

 それでも、ここから先はいい関係が、絆を強くして、

「これこそ、K署。警察の鑑のようだ」

 とまで言われていたのだ。

 県警の上層部では、そういう話もあったが、現場の連中には分かっていないようで、ただ、ウワサとしては聞いたことがあった人が多かったので、ある意味、県警の刑事も、K署に対しては、敬意を表して、捜査に当たっているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る