第4話 駄菓子屋にて4
一乃瀬には秘策があった。
財布から取り出したのは金のエンゼル。いわゆるチョコボールの当たり券だ。
一乃瀬自身、お菓子で当たりを引くという嬉しさや高揚感を知っている。知っていたからこそ今回この少年にサプライズを仕掛けたという訳だ。
金のエンゼルは一乃瀬自身大事にしていたものでチョコボールをよく買う一乃瀬でさえ人生で1回しか当たっていない。明らかに10円ガムの当たり券より何十倍も価値がある物だが、こうなったら背に腹はかえられない。こうなった以上はむしろ少年にはもっと喜んでもらいたい。
「実はお兄さんは10円ガムの当たり券コレクターなんだ。もしよかったら俺の金のエンゼルと交換しないか?」
笑顔でそっと金のエンゼルを凛空に見せる。
だが凛空は訝しんだ様子で首をかしげていた。
「金のエンゼル?なにそれ知らないよ」
「し、知らない、、だと?」
駄菓子を漁る振りをしながら聞いていた楓蓮はガクッと肩を落とした。
私も欲しいと思っていた金のエンゼルでも釣れないとなると中々に厳しいかも。
そんなことを思いながら一乃瀬達のやりとりに聞き耳を立てる。
「あっでもちょっと待って。」
凛空はおもむろにスマホを取り出し、そして何やら調べているようだ。
そんな様子を見て一乃瀬は内心焦っていた。
「もしかして俺不審者認定されて通報されそうになってる?」
動揺しながらも凛空の様子をじっと眺める。
凛空はふむふむと頷いている。
「相場1500円って所だね。メルカリで調べたけどすごい価値の物なんだね!」
1500円?メルカリ?一乃瀬はポカンとする。
どうやら調べていたのは金のエンゼルの価値や相場だった。今の小学生そんなことできんの?小学生すげえ。
でも価値や相場のことなど考えず、純粋に温かい取引したいというのが一乃瀬の本音だった。
少し咳払いをして一乃瀬は話し始める。
「少年が10円ガムを当てた時嬉しかったろ?その感情ってお金じゃ買えないくらいの価値があった体験だと思うんだ」
「うん、人生で初めてのことだしすっごく嬉しかった!」
「そして金のエンゼルも俺が当たった時すごい嬉しかったんだ。だから少年、出来れば値段とか価値とか考えず純粋に交換に応じてくれると嬉しいな」
凛空は少し考えるような表情をしてにっと笑った。
「もちろんいいよ!っていうか金のエンゼルと交換って話だったけど欲しかったら別に交換とかじゃなくてあげるつもりだったのに」
それを聞いた一乃瀬、楓蓮、黒崎は驚いていた。そして内心ガッツポーズをする。
この子を喜ばせようと思ったのは間違いじゃなかった。そんな風に思わせてくれた凛空に感謝しかない。
「ありがとう少年。この当たり券は大事にコレクションしておく。それにしても初めて当たった券を欲しかったらすぐあげたなんてお前も相当にお人好しだな」
この子は小学生なのに人に優しくすることを喜んでしようとする。大人の俺たちでも中々に難しいことなのに。そういう意味ではこの子はもう大人なのだ。
「そんなことを言ってくれたお礼にほら。10円ガムも1個やるよ。好きなの持ってきな」
一乃瀬は細工をしてない10円ガムを何個か差し出す。それに対して今度は凛空が驚いた表情をしていた。
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