第一話 駄菓子屋大作戦

第1話 駄菓子屋にて

*******


「やったぁ!!!!当たりだ!!!!」


駄菓子屋で大きい歓声が上がった。男の子が拳を天に突き上げて振り下ろす。

ガッツポーズをしている男の子は朝比奈凛空。

地元の吾妻第一小学校に通う、小学二年生の男の子である。

吾妻第一小学校は駄菓子屋から大人の足で十分、小学二年生の足で十二分程度の距離にある。

朝比奈家の家族構造は、父が…

家族構成やその他の情報はここでは割愛しておく。


凛空少年の握り拳には小さい紙片が握られていた。


「おめでとうねぇ、ぼく」


駄菓子屋のお婆さんは満面の笑みを浮かべ、凛空少年と一緒に喜んでいた。


「ぼく、初めて十円ガムの当たり引いたよ!」


駄菓子屋から数メートル、電信柱の陰で結城楓蓮ゆうきかれんは合図を待っていた。

背中まで伸びる黒髪が風で揺れる。緊張と高揚感から、右肩にかけるトートバッグをしっかりと握りしめる。


もっと自然に何気なく……、リラックスよ……。

楓蓮の興奮は少し落ち着いてきて、黒髪を焦がすような熱気を頭に感じた。

「本当に今日は暑いわねぇ」

あまりの陽射しにつぶやく。真上に手をかざし、燦々と輝く太陽を親の仇のように睨みつけた。


こんな暑さも感じられていなかったなんてよっぽど緊張していたのね……。


突然、耳に入れていた超小型インカムがブッーッとオンになる。

「よし、ミッションの第二段階に入った。いよいよ、楓蓮の出番だぞ。作戦をおさらいすると……」

インカムの指令が作戦の一連の流れを伝える。

大丈夫。あれだけイメトレいたんだから……。

「──まだ、ミッションはコンプリートしていない。最後の仕上げ、抜かるなよ」


楓蓮は胸元まで伸びた長髪を左小指で器用に耳にかけ、インカムに手を当てる。


「分かってるわ。任せて!」


返事を待たずにインカムをオフにし、楓蓮は駄菓子屋へ向かって歩き出した。

肩に掛かるトートバックが揺れた。


「当たったから、もう一個ガムちょうだ……」

ピンポーン──!

凛空少年が声を挙げたのと駄菓子屋裏の玄関のインターホンが鳴ったのは同時だった。


「ぼく、少し待っててね。今日はお爺さんが出掛けてて、家が留守だから」

駄菓子屋のお婆さんの声が黒崎翔くろさきしょうのヘッドホンに届いた。事前に仕掛けてあるマイクが駄菓子屋のお婆さんの声を拾っている。


そう、本日、駄菓子屋の主人は町内会の地域ゴミ拾いのイベントに出ており不在である。

「ここまでは想定通り」

黒崎翔はマイクをオフにした状態で呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る