第13話 親友
机に顔を埋め腕を突っ伏して、窓の外を眺める。
いつもだったら雲一つない青空に癒されるけど、今は空虚感しか感じない。
何も頭に浮かばない。
校内では、東堂とあかねが交際を始めたという噂で持ちきりだ。
美男美女カップルなんて、苦笑いしかでない。
誰もが祝福している。
そんな僕を見かねたのか、蒼太が女子との会話を打ち切って、僕に声を掛けてくれた。
「一本取られたな誠一。でも、諦めるのは早いと思うけどな。」
僕の前の席に座り何かを企んでいるのか、ニヤニヤする蒼太。
「諦めてなんかいないよ。でも、どうすればあかねを取り戻せるかが分からないんだ。それに父さんも母さんの仕事まで奪われて、どうすればいいか、、、。」
東堂家に突撃した後、自宅に帰ると父さんが縁側に座っていた。
口うるさい母さんと違って、穏やかで優しい人柄のお父さん。
父さんはいつだって、仕事を生きがいに楽しそうに農作物を育てて、たまに僕に長々とこの野菜についでなど、熱く思いを語るのが好きだった。
生きがいを失った父さんの後ろ姿は正気を失ったような感じだった。
そんな父さんを見たのは初めてだった。
僕に気付いたのか?
振り返った父さんは何事もなかったように大丈夫だよ。なんとかなるさの一言だけ言った。
そんな父さんを見ていられなかった。
「そんな浮かない顔するなって!情報こそが鍵だ!唯一の親友が言ってるから間違いない‼︎」
蒼太は自慢げに言った。
「親友?」
そう。僕には親友どころか友達と言える人物、一人すらいなかった。
蒼太の言葉に戸惑いを隠せない。
「当たり前だろ。じゃなきゃ、こんなめんどくさい事に関わる事ないだろ。」
そう言って、ニコッと笑う蒼太。
「ありがとう。」
蒼太は、僕の頭をぐしゃぐしゃに掻きながら、半べその僕に活を入れた。
ボサボサ頭にされた僕は、眼鏡を整えて、情報が鍵ってどういう事?って、蒼太に聞いてみた。
「生徒会長は、裏では極悪非道な事をたくさんやらかしている。
だからと言って、それを公にしても誠一達の状況の改善にはならない。つまり賭けだ。」
「賭け?」
「誠一んとこの農作物が売ることが出来ないなら、売り込みすればいいんじないかって。」
「売り込みって、どうやって?」
「そこで、俺様の出番だ。」
考え込む僕と違って、自信ありげな蒼太。
「情報は時として武器になる。」
「つまり?」
「俺が東堂家をぶっ潰す!」
いや、いきなり何を物騒なと言いかけたが、蒼太の目は真剣だった。
「あとは、お前次第だ。ご両親が大事に育てた野菜と梨をどうするか?分かるだろ?」
そう問われて、ハッとする。
「ネット販売⁉︎」
幸いなことにうちの農作物は良質で人気も取引先からも評価が高かった。
これらをいかに活かすかは僕にかかってる。
やるしかない!やるんだ!
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