第12話 遠い君
この日は、学校が休みで、僕は畳に寝っ転がり天井を眺めていた。
どうすれば、東堂からあかねを救う事が出来るのだろうか?
手を伸ばせば届きそうで届かない。
あかねを抱きしめた時、微に(信じてる)って、言葉が聞こえたような気がする。
どうにも出来ない無力な自分に苛立ちを感じて、髪をぐしゃぐしゃに掻いた。
「大変!大変!大変!」
階段をバタバタと駆け上がる音が響き、出入り口の襖が開け放たれた。
こはるかと思いきや、こはるを押しのけて、母さんが、僕の胸ぐらを掴んで、思いっきり頬を叩いた。
「この親不孝者!あんた、東堂さんの息子さんに何したの!」
状況が分からず、困惑する僕に鬼の表情の母さん。
こはるが母さんを僕から引き離し、状況を説明する。
「農作物の取り引き先が全て切られちゃったの。店頭販売も断られるし。今が旬の梨を売ることが出来なくなって、、、。」
「はっ?えっ?待ってよ!」
状況に頭が追いつかずに混乱する。
農作物を売る事が出来ない?
母さんは息荒げに言った。
「東堂家に逆らうと、この町では生きていけなくなるの!あんた、何かやらかしたんでしょ!言いなさい‼︎」
母さんは僕の両肩を掴んで、正直に話しなさいとばかりに睨みつけた。
いてもたってもいらず、母さんを振り切って、僕は部屋を飛び出して家を出た。
向かったのは、東堂圭介が居るであろう、東堂圭介の祖父の家だ。
走ってなんとか夕暮れ前に辿り着く事が出来た。
町一番の地主、成金一族とあって、とにかく大きい和風のお屋敷で、家を囲う塀に堂々とした門構え。
少しだけ躊躇したが、門の端にあるインターフォンを押そうとした時だった。
「なんだ君か。ここに来て何の用だ?」
その声の主は、紛れもない東堂だった。
しかも、彼の横には着物を着たあかねがいた。
着物姿のあかねを見て、あまりの美しさに一瞬見惚れてしまったが、それどころではない。
「君、僕だけじゃなくて、僕の両親まで巻き込んで何を企んでいるんだ!」
あぁ、その事かと、思い出したように東堂は言った。
「目障りなんだよ。君みたいなゴミが少しでも俺達に関わって来るのが。ゴミは徹底的に排除するのが普通だろ?」
「だからって、僕の両親の仕事まで奪う事はないだろ!」
普段は控えめな僕だけど、我慢が出来なかった。
僕だけじゃなくて、両親までバカにされているようで我慢がならなかった。
「どういう事?圭介さん?誠一には危害を加えないって約束したはずじゃ、、、」
あかねが口を挟んだが、東堂は嘲笑うように言った。
「そんな口約束。俺が守る訳ないだろ?俺は、欲しいものはどんな手段を使っても手に入れてきた。お前は俺の許嫁だ。もぅ、逃げる事も出来ない。」
「卑怯者‼︎」
あかねは、一喝し、東堂から離れようとした。
だが、腕を掴まれ顎をぐいっと、引き寄せられる。
「これは、お前が選んだ事だ。今更、後悔しても遅い。」
すると、重たい門が開かれて、あかねは東堂に引かれ執事と共に中へと入っていく。
力の限り僕は叫んだ。
「あかね!僕が必ず助けに来るから!負けないから!」
門は固く閉じられ、静けさだけが残った。
もっと早くあかねの気持ちに応えていれば、いろんな感情が渦を巻きながら、取り残された僕は、悔しくて悔しくて、自分の甘さを思い知った。
「大変!大変!大変!」
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