第8話 静かな覚悟
ある日の朝。
それは、いつもと変わらない朝だった。
学校に行く準備をしないとと思いつつ、心地よさから布団から出られない。
特に下半身に何か。
下半身?
がばっと、起き上がって、掛け布団をめくった。
「すごーい!寝てても元気なんだね!誠一兄♡」
僕の下半身の膨らみに人差し指を指して、イタズラっぽく舌をぺろっとする。
そして、あろう事か。
「渾身のぉ一撃‼︎」
思いっきり手を縦に空を切って振り下ろした。
「こ、こ、こはるーーーっ‼︎」
穏やかな朝と思いきや、やはりそうとはいかなかった。
怪我の影響で、1週間ぐらい学校を休んでいたから、なんだか不思議な気分だ。
家を出ると、いきなり黒塗りの高級車が僕の目の前に止まった。
僕は、驚いて何事だと、この田舎に不釣り合いなその車を見た。
すると、運転席から白髪にシワひとつない燕尾服の老人が出て来て、僕に挨拶をしてきた。
「初めまして。池田誠一様。ご主人様が貴方に御用がございますので、少々お付き合いを願います。」
そう言って、後部座席の扉を開けた。
怪しすぎる。どう見ても怪しい。
警戒していると、中から若い男性の声がする。
「君と話したい事があるんだ。」
さぁ、早くと言わんばかりに白髪の老人、、、おそらく、見た目から執事だろうか?
背中を押され運転席へと押し込まれて、扉が閉められた。
その時、こはるが家を出て来たようで、何かを言っていたが、すでに車は発車していた。
恐る恐る隣の人物を見ると、とても穏やかな色白の好青年といった知的な男性がいた。
「強引な事をしてすまない。僕は、東堂圭介。君と同じ学校の3年生だよ。そして、生徒会長を努めている。」
生徒会長⁉︎
って、つまり、あかねを狙ってるって噂の人物‼︎
「あの、生徒会長さんが僕に何用で?」
涼しい顔をする東堂圭介とは違って、縮こまる僕。
我ながらかっこ悪い。
「面倒なのは嫌いだから、単刀直入に言うよ。美野あかねから身を引け。」
「はっ?」
「君達の事は調べたよ。幼馴染だって事も。君の実家が農家、農業で生計を立てていることも。何より美野あかねが君に好意を持っている事も。」
「それが、生徒会長さんに何の関係が、、、?」
すると、東堂圭介は怒りなのか?顔を歪ませて、さっきとは違う涼しい顔から怪訝な表情になった。
「俺は、権力と財力で欲しいものはなんでも手に入れてきた。なのにあの女は俺を振った。初めてだった。」
屈辱。
美野あかねは、全てを手にしている俺よりも俺以下の男である池田誠一を選んだ。
だから、どんな卑怯な手を使ってもこの女を手に入れたいと思った。
「イベントの時は強引過ぎたと思った。君には痛い思いをさせて悪かった。けど、彼女が大人しくしていなかったのが悪かったんだ。」
イベントと聞いて僕は、はっとした。
まさか、あの時の暴漢って、生徒会長さんの仕業⁉︎
「君が美野あかねから身を引くなら、欲しいものでも、お金でもあげよう。なんなら君に合いそうな代わりの女を紹介してもいい。どうだ?」
そう聞いて、僕の中に沸々と怒りが込み上げてきた。
「あんたはあかねを何だと思っているんだ!大事に思う人を傷つけてなんとも思わないのか?
どんな条件を出されようと、あかねは渡さない。絶対にだ‼︎」
「そうか。分かったよ。じゃあ、君は用無しだ。」
そう言った、東堂圭介の表情は冷たく、冷淡だった。
途端に急ブレーキが踏まれ車が止まるや否や後部座席の扉が開き、僕は車から容赦なく放り出された。
そして、僕を置いて車は再び発車して行った。
「痛たた。全く、今日は、ついてないなぁ。」
地面に座りながら空を見上げた。
よく晴れた青空だ。
身を引くつもりはないけど、もし、あかねから身を引かなかったらどうなるんだろう。
あかねは、大事な幼馴染だ。
幼馴染、、、か。
その時、こはるの観覧車での顔と普段は見せないあかねの顔が重なって頭に浮かぶ。
「うじうじして、何をしているんだ。僕は。」
もぅ、初めから答えは出てるじゃないか。
はっきりさせよう。この曖昧な気持ちに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます