第4話 小さな恋心






「すっごーい‼︎」


こはるは、子供の様に騒いでいる。


今、僕達がいるのは田舎から少し離れた小さな遊園地。


電車とバスで移動して、やっと辿り着いたところだった。


こはるは様々な遊具にキラキラと目を輝かせている。


特に遊園地の目玉である絶叫マシンには、興味津々の様だ。


「早く!誠一兄!行こうよ!」


「うっ、うん!」


こはるに腕を引かれて遊園地内に入っていく。


「こはる!あまりはしゃぎ過ぎると危ないから、少し大人しくして!」


「誠一兄!これが乗りたい♡」


こはるが指を指したのは、乗客が大船に乗ったまま左右に大きく揺らすアトラクションだった。


一番目になかなかハードなものを、、、。


実を言うと僕は絶叫マシンや激しいアトラクションは苦手なのだ。


だが、僕だって男だ!


絶叫マシンだろうと、何だろうと、なんでもかかって来いだ‼︎



2時間後ーーー。



「すっごく楽しい‼︎ねぇ、もう一度、ジェットコースターに乗ろうよ?誠一兄‼︎」


遊園地に興奮して、はしゃぎ回るこはるに反して、僕は絶叫アトラクション打ちのめされて、完全にブルーになっていた。


情けないが、またジェットコースターに乗ったならばキラキラをかましてしまうかもしれない。


「もぅ、誠一兄ってば、根性ないんだから!」


しばらく、僕がベンチでぐったりしていると頬に冷たい感触が伝わった。


「冷たっ!えっ?オレンジジュース?」


「休憩タイムなり。」


にっこりと笑顔でメロンソーダを片手に持つこはるが、僕の隣に座りメロンソーダを飲み始めた。


「ありがとう。」


「遠慮なく。そういえば、約束の生徒会長とやらが、どんな人物か話してなかったよね。」


そうだ‼︎


「どんな人⁉︎やっぱり生徒会長っていうだけ、人望が厚くて、頭がいいとか?」


ぷはっと、メロンソーダを飲むとこはるは誠一の目を見る。


「まぁ、あってはいるけど。そんな、そんじょそこらの生徒会長とは訳が違うよ。うちの生徒会長は。」


「えっ?」


急に真剣な顔をするこはるにドクンと心臓が鼓動する。


「成績優秀、スポーツ万能、顔面偏差値校内一位!。しかも、町一番の地主の息子。父親は都会で、会社を経営してて、母親はその会社のサポート役。成金一族の御曹司だよ。」


「そっ、そんな人がなんで、こんな田舎の高校に通ってるんだよ。普通は両親の後を継ぐ為に都市部の高校に通うだろ。」


すると、こはるは誠一の耳元で囁く様に呟いた。


「この町に来た時にあかねさんに一目惚れして、この高校に入学したんだって。」


一目惚れ⁉︎


焦る僕を見て、こはるは続ける。


「噂では、生徒会長は卒業と同時に上京して、大学に入学するらしいから、その時にあかねさんも一緒に連れて行くって話もあるみたいだよ。」


そして、メロンソーダを口に付けて、いじわるそうに笑いながら。


「誠一兄。大ピンチだね。」


そんな、とんでもないエリートがあかねを狙ってる⁉︎

もし、生徒会長があかねに告白したらあかねはどう答えるのだろうか?


受け入れるのかな?それとも、、、。


いや、初めから答えはわかってる。


僕みたいな陰キャオタクがエリート生徒会長に敵うわけ。


「はい。終わりー!」


「痛ーーーっ!」


スパーン!と、小春の平手打ちが僕の頭にヒットした。


「今、僕みたいな陰キャオタクがって、思った?」


「うっ。」


こはるに心の中を読まれていたようで、言葉に詰まった。


「自身が無いのは、誠一兄の悪い癖‼︎もっと、自分に自信を持って!相手が自分より優秀な人物でも大事なのは心なんだから。」


「心、、、か、、、。」


オレンジジュースを眺めながら呟いた。


すると、こはるはぐいっとメロンソーダを一気にぐいっと飲み干し、誠一の両膝にこてんっと、寝転んだ。


「こはるっ⁉︎」


「小さい頃、他の従兄妹達も連れて家族でここに来たの覚えてる?」


小さい頃、、、。そういえば、お盆に一族がうちに集まった時に一度だけ、ここに数人の従兄妹達と来た事あった。


「私さ。血の繋がりがないから、他の従兄妹達の中に入れてもらえないし、私自身、不器用で意地っ張りだから、ここに来ても全然楽しくなんか無かった。」


「そうだったな。あの頃のこはるは、無口で棘があって、誰とも関わろうとしなかったもんな。」


こくりと頷くこはる。


「でもね。そんな私を辛抱強く、楽しませようと必死に笑わせようとしてくれたのは、誠一兄一人だよ。」


「えっ?」


「可笑しかったなぁ。みこりんのぬいぐるみを持って、人目を気にせず、笑顔でみこりんの必殺技を再現したり、ジェットコースターが苦手な癖に私の手を握りながら平気な顔して、終わった後は真っ青な顔して、みこりんのぬいぐるみを抱きしめて泣いてるんだもん。

本当に変な人って思った!」


あの時、こはるを楽しませようと必死だったのに変人に見られてたとは、、、。


「最後に観覧車で、頂上に達した時、忘れもしない綺麗な海に浮かぶ夕陽。

宝石みたいにキラキラ輝いて、初めて見た景色だった。

そしたら、誠一兄も一緒に眺めながらキレイだねって。

こはるは、本当はこの夕陽みたいに心がキレイな子だから自分を守る為に壁を作ってしまうんだ。

でも、そんなことしなくても、こはるを守ってくれる人は、きっといるから。そんなに怖がらなくて良いんだよって言ってくれたの。」




こはるは両腕を誠一の首元に回す。


二人の視線が合う。











「その時、私は誠一兄に恋をしたんだよ。」
















その後、、、。


僕らは、思い出の観覧車に乗っていた。


お互いに無言のままだ。


まさか、こはるから告白されるなんて思ってなかった。


こはるの思わぬ告白に動揺しつつも冷静を保とうとする。


すると、観覧車が頂上に達するとオレンジ色の夕陽が海に浮かび、その光が海の水に反射して、美しく輝いた。


まるで、あの日と同じ光景の様だ。


「綺麗。」


こはるは、一言だけ呟きそれ以上、何も言わなかった。


こういう時って、どうしたら良いんだろうか?


「あのっ!こはる!」


「何?誠一兄。」


しばらく沈黙が流れる。



「また、来ような。」



「うん。」



こうして、僕達のデートは幕を閉じた。



























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