第9話 あなたの呪いを解いてみせる!
「フィリン……君はおてんば以外にノーテンキと言われることはないか?」
ダン王子が呆れたように言う。私に遠慮なくそういうことを言う王子はどうなのかしら⁉
「失礼ですねっ! 訳もわからずそんなことになってしまったのだから、元に戻りたいと思うのは至極真っ当でしょう⁉」
「この姿になってから、元に戻る方法を調べていないとでも思っているのか?」
ダン王子がため息をつきながら首を左右にふる。
ソファから降りたダン王子は書斎の机へと向かうと、私に「この引き出しを開けてくれ」と言ってきた。
言われた通り、私も机へ早足で近寄って引き出しを開けると一通の手紙が入っていた。
思わず手に取ると、ダン王子が「私宛てだ。差出人は……例の女からだ」と苦々しく吐き出した。
「中身を見ても構わん。……それが真実なら、私は元に戻ることはできない……」
私は手紙を前にゴクリと喉を鳴らす。
「ダン王子……」
「遠慮することはない。フィリンになら見せてもいいと思ったのだから」
「あの……私……難しい字は読めません……」
「……な、なんだと……」
「なので、読んで下さい!」
今日、何度目かのダン王子のため息をみると、「仕方がないな……」と前足で器用に手紙を広げだした。
──親愛なるダン王子
このような突然の手紙をお許しくださいませ。
そちらでの日々はいかがでしょうか? 王都とは違い、あまり良い環境とは言えないようですが元気にお過ごしでしょうか?
さて、あなたの突然の変化に関していくつかお知らせしなくてはと思い、今回この手紙をしたためました。
ある朝、そのような野獣のお姿になり大変驚いたことと思います。
あなたが私のことを危険視していたことは知っております。私はただの魔術使いなのに、何をそんなに怪しんでおられたのかまでは存じませんが。
お父様に色目を使っているようにでも見えたでしょうか。
あなたに毎日のように睨まれ、監視されておりますと、私の仕事にも差し支えます。
ですので、少しばかり
あなたの姿を変えると共に、この国に降りかかる災いを封じ込ませていただきました。
この呪いは条件が揃えば簡単に解けてしまうような些細な呪いでございます。
条件は簡単でございます。
「真実の愛」を見つけることが出来れば、その呪いはあっという間に解けることとなりましょう。
しかし、忘れないでくださいませ。
その呪いが解けた暁には封じ込めていた災いも解き放たれることとなります。
自分勝手な行動をするあなたにはちょうどいい足かせだと思いませんか?
自分のために呪いを解くも、国を思って耐え忍ぶのも、どちらでも構いません。
まぁ、その醜いお姿で「真実の愛」が手に入れられるかどうか、大いに疑問ですわね。
……あぁ、どうせならみっともなく足掻いているお姿を拝見するのも一興ですわ。
我が国一番の才王となられるであろうと言われたお方の廃れていく姿ほど、素晴らしい余興は他にありません。
どうか、私の願いが達成するまではどうかその廃れた地でじっとしててくださいませ。
それでは、ごきげんよう。
私の愛おしい王子様へ。
──あなたのドライドより
「チッ、何度見ても忌々しい名前だ、ドライド……」
「な、なんてことなの……」
ダン王子の読んだ手紙の内容に、私は言葉も出せずただただその手紙を眺めることしかできなかった。
ダン王子は眉根をぎゅっと寄せてつぶやく。
「これが真実かどうかはわからない。しかし、真実であったならば元の姿に戻ることはこの国に災いを招くことと同義である。何の罪もない国民たちに災いを降りかからせることなど、私には出来ない……」
ダン王子が低く唸る。
「しかし、このままあの女が王城に……王の側にいることも、きっと国民たちに悪い未来をもたらすことになると思う。だが、私はどうすれば……」
しばらくじっとダン王子の話を聞いていた。
難しいことばかり言っていたけど、要はこのドライドさんの悪巧みをやめさせてダン王子にかけた呪いも解いてもらって、国に降りかかる災いも取り払ってもらえばいいってことでしょ?
難しいことはよくわかんないけど、ドライドさんを説得すればどうにかなるでしょ!
「わかりました、ダン王子! そのドライドさんを説得してすべてを解いてもらいましょう!」
「今まで何を聞いていたんだ? そんな簡単に言ってくれるな……」
「一気に全てを解決なんてできないんですから、ひとつずつやっていけば大丈夫ですよ!」
「君のその自信はいったいどこから湧いてくるんだ……」
「まぁまぁまぁ。こんな作戦はどうですか⁉︎」
まずはこの呪いが本当なのかが知りたい。
その為の手がかりを探すためには王城へ行くのが手っ取り早いだろう。
そこで、私がツアース城へ仕える為の礼儀作法を学ばせてもらう、という名目で王城へと派遣してもらう。
そこで、ダン王子にかけられた呪いに関しての手がかりを探してくる、という作戦だ。
我ながら、結構良い作戦だと思うわ!
一人でうんうんと頷いているけど、ダン王子は難しい顔をしている。
何かまずいことがあったかしら?
「……君だけでは、とんでもなく不安だ……」
「そう言っても……そうだわ!」
そんなに心配なら、ダン王子も一緒についてくればいいんだわ!
ダン王子には悪いけど、少しだけ協力してもらおう。
私はツアース城周辺で採れる草で急いで薬草湯を作り、ダン王子に何度も何度も入ってもらった。
ダン王子の艶やかなグレーの毛は、濁ったような薄暗い鉛色に染まった。
こうして数日後、王城へ新人メイドの礼儀作法を習うため、私とペットのダニーは馬車に乗って王城へ向かうのだった。
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