第7話 ダン王子との思い出話
「……昨日はすまなかったな」
「いえ、あの……こちらこそ、色々すみません……」
2階にあるダン王子の書斎に場所を移し、ダン王子に勧められるままにふかふかのソファに座った。
マイディンさんに入るなと言われた部屋はダン王子の書斎ということもあり、机も椅子などの家財はもちろんのこと使われている文具などの消耗品にいたるまで明らかに庶民が使うものとは違うオーラを醸し出している。
棚にほこりひとつ見当たらないけど、誰が掃除してるんだろう? マイディンさん? それとも王子が自分で掃除してるのかな?
……そんなわけないか。王子だもんね。
本棚には厚い本が並んでいる。私のいた村でも文字を教える学校はあったけど、ちゃんと話を聞いていなかったので本に書かれている題名全部を読むことはできない。
王子の机の上はキレイに整えられていて、布巾でよく磨き上げられている。
床にはふかふかの絨毯が敷かれていて、これならダン王子の肉球も気持ちいいだろうな。
「失礼いたします」
マイディンさんが飲み物を持ってきてくれた。私にはカップとティーポット。ダン王子にはミルクだろうか。白い液体を平たいスープ皿に入れて運んできた。
マイディンさんがそれぞれの前に飲み物を置くと、私にこっそり「王子の前です。粗相のないように」と囁いてから部屋を出ていった。
……ごめんなさいもう遅いです、とは言えない。
ダン王子はスープ皿のミルクを周りにこぼさずに丁寧に飲むと、こちらを見てゆったりと話す。
「緊張しなくていい。……君は昔、私を助けてくれた『おてんば娘』だろ?」
覚えていてくれたのは嬉しいけど、どうして「おてんば娘」のところばっかり覚えているのよぅ!
おてんばは昔の話なのに!
それでも、覚えていてくれたことが嬉しい。王子の言葉を聞いて思わず顔がゆるむ。
「覚えていてくれたんですね。……嬉しいです。あのときは、助けてくれて本当にありがとうございました」
「新しいメイドがトイサーチ村出身と聞いてもしやと思ったが……昨夜の様子から君だと確信したよ」
昨夜、ダン王子の前で聞き耳立ててころんだことも、今朝王子の声に驚いてころんだことも頭を駆け巡って恥ずかしくなって思わず顔を伏せた。
王子が私だと確信する要素がひどすぎる。
「それから……昨日は物置小屋のところでも心配をかけてしまったな。普段、あそこに人は来ないから少し休んでいたんだ」
「あのときの子はダン王子だったのですね。……でも、私が知らないだけだったのならわざわざ逃げなくても……」
「あー……怪我をしてるとマイディンが飛んできて心配するからな。私が小さい頃から仕えてもらっているからか、未だに私のことを子供扱いするのだ。大したことない傷でも大騒ぎだ」
「これくらい舐めとけば治る」とボヤくダン王子は、たしかにちょっと子供っぽく見える。
「ところでダン王子。あの……ひとつ聞いてもいいでしょうか?」
「あぁ。……ま、大体の察しはつくが」
「昔、私を助けてくれたときは……人間だったと思ったのですが……」
「そうだな」
「えっと……元々、狼さん、だったのでしょうか……?」
ダン王子が飲んでいたミルクをプッと吹き出した。
「ハハハッ、元々狼だったのかもしれないな」
「ちょっ……私、真剣に……っ」
「そうだな、すまない。その発想はなかったので面白くてな。どれ、ひとつ昔話をしてやろう」
ダン王子はそう言うと、私の横にのぼると私にお尻をくっつけるようにして丸くなり子どもに聞かせるように昔話を始めた。
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