第4話 ツアース城の秘密


「とりあえず、これで人並みに寝れるかしらね」


 あれから、とにかく部屋の中の埃を取り払い、ベッドとソファ、テーブルをきれいに片付けた。まずは、自分が過ごす最低限のスペースの確保を優先した。


 散らばっている木箱を片付けようにも、大きいものは私一人では運べない。仕方なく、自分で運べるものだけ部屋の隅に移動させた。


 それにしても、この箱には何が入ってるんだろう。


 目の前にある、30㎝くらいの中くらいの大きさの箱をそっと覗いてみる。


「何これ……?」


 箱の中には動物用のおもちゃがどっさりと入っていた。この城のどこかで番犬などを飼っているのかもしれない。

 モフモフ出来るときがくるかしら。


 小さな楽しみを胸に、私は次の指示を仰ぐべくマイディンさんの元へと向かった。



 ***



「マイディンさーん!」


 2階にいるとは言っていたけど、2階にもいくつか部屋があるので一部屋ずつ見回りながらマイディンさんを探す。


 2階にはまわりの部屋と違って一際立派な扉がある部屋があった。

 扉には細かい浮彫が施されていて、それだけでも他の部屋の扉とは一線を画すものとなっている。

 その扉に思わず手を触れると、背後からマイディンさんの声が聞こえてきた。


「その部屋には入ってはいけません!」


 彼女の声のあまりの鋭さに、とっさに手を引っ込めた。

 マイディンさんはツカツカと私の横まできて、私の目をジッとみてくる。その鋭い眼光に足がすくみそうになる。


「す、すみませんっ。扉の装飾がキレイだったので、つい……」

「……ここは旦那様の書斎です。簡単に入っていい場所ではありません。私たちはやるべき事が沢山あります。まずはこの階をキレイにしてしまいましょう」


 マイディンさんに2階の各部屋の説明を受けながら、一緒に掃除をしていった。

 そのあとは、3階、4階と同じように案内と掃除を同時並行でおこなった。


 あれ?


 4階を掃除している時に何か違和感を感じたけれど、それをうまく言葉にできなくてモヤモヤをもちながら掃除を終えた。

 そして、4階にも立派な浮彫を施された大きな両開きの扉があった。デザインが2階にあった扉と似ているような気がする。


 そこもやはり旦那様のお部屋のようで、立ち入り禁止だという。


「そういえば、ツアース城主様ってどんな人なんですか?」

「あなた……そんなことも知らずにここへ来たのですか?」


 各階の掃除が終わり、一息入れたときに疑問を口にしたらマイディンさんの目がまん丸になってしまった。


 うぅ……。こっちに来る途中でも兵士さんからは城主についての説明はなかった。

 知っていることと言えば、ファッサンが言っていた「奥様候補を探している」ことくらい。


 マイディンさんが、深呼吸をするように大きく息を吐いた。そして大きく息を吸った。


「全く、自分が仕える城主様について何も知らないとは一体どういうつもりなのでしょうか。その程度の覚悟しか持たずに、旦那様のお役にたてると思ってこちらに来られたのでしょうか。それともなにか他に目的があってこちらまで来られたのでしょうか。もしも、旦那様の邪魔をするようでしたら速やかに、ここから去っていただきますのでそのつもりでいて下さいね」


 マイディンさんは吸った息をすべて吐ききる勢いで話すと、額に手をあてて小さくため息を吐いた。


「本日、旦那様は夜までお戻りになりませんので、それまでに旦那様に関することについて少し知識を入れるようにしなければなりませんね」


 私があっけに取られていたら、睨みつけられて「返事!」と催促されてしまった。

 私はマイディンさんの勢いにただただ背筋を伸ばして「ハイィッ!」と答えるしかできなかった。



 その後、マイディンさんが仕事の合間にツアース城主様について話してくれた。

 本当はじっくりと話したいのだろうけど、やはり城の使用人が足りておらず、常に何かしら手を動かしながらの説明になった。


 マイディンさんの話によると、ツアース城の城主をしているのは王様のお子様で名前をダン王子という。

 もしや、と思ってよく聞いてみると私が10年前に助けてもらったあの王子様で間違いないみたい。


 知らなかったとはいえ、まさか初恋の人の元で働くことになるなんて!


 思わず頬がゆるんでしまう。

 きっと彼のことだ、素敵な王子様になっているに違いない。会えるのが楽しみだ。


 ファッサンの口車に乗ってしまったときは心底後悔したけど、今はうまいこと乗せてくれたファッサンに感謝しかない。

 王子様の元なら、3年どころかずっとここで働けるわ!


 私はウキウキとした気持ちで、ダン王子が帰ってくるのを待っていた。

 しかし、仕事が忙しいのか私が床についても王子が帰ってくるような気配はなかった。

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