第2話 メイド募集!
「あら、ツアースのお城でまたメイドを募集してるね」
村の中心にある伝令板をみて、ママがつぶやく。
私とママで村の真ん中にある井戸へ水を汲みにきた時にママが見つけたのだ。
森の出来事から10年。今では落ち着き、立派なレディーとなった私はママの手伝いをして過ごしている。
「また?」
「もうこれで何回目かね~。給金も上がってる。結構良い金額だけど、なかなか務まらないのかしらね」
「そりゃあ、太陽が1年のうち1/3しか出てなくて、野獣も多い、出来る作物も限られてる……いくら給金が良いったって……ねぇ?」
いつの間にか近くにきていた、ふくよかな女性が口を挟んできた。村一番のスピーカー、噂話が大好物なファッサンだ。……きっと、私たちの会話にも聞き耳を立てていたんだろう。
「あら、ファッサン。今日も元気そうね」
「ふふっ、そちらこそ。……おてんば娘も今日はずいぶん静かだね」
「ファッサンってば! おてんばだったのは昔の話でしょう!? 今は17歳の立派なレディーよっ」
つい、カッとなってママの横から口を出してしまった。ママが呆れているように見えるのは気のせいだよね?
ファッサンは私のことなど意に介さないといった様子で、楽しそうに話を続ける。
「そのツアース城主様の奥様候補も探しているみたいだけど、やっぱりあんな危険なところに嫁がせようとする貴族はいないみたいだね」
「……ねぇ、ファッサン。そんな貴族にしか流れないような情報、どっから見つけてくるのよ?」
「え? そんなのうちの娘を隣町にいる貴族のところで働かせているから、よ……」
自信ありげな顔で話していたファッサンがハッと何かに気づき、一気に悪い顔になった。
その顔をみた私の背中に悪寒が走る。
「そうよ! フィリン、あなたツアース城へ行ってきなさいよ!」
「……はっ?」
「いやぁ~……さすがにうちのおてんばに城勤めは無理よぉ~……」
ママ、そこはもうちょっと違う否定をして欲しかったわ。
「良いじゃない、すぐ辞めればいいんだし! これもちょっとした経験よお~」
ファッサンが猫なで声で食い下がってくる。その顔はニヤニヤととても楽しそう。きっと、私がツアース城で働いて噂話を持ってくるのを想像しているのね。
さっき苦笑いしながら否定していたママは、何かを考えるようにジッと手元を見ている。
このままではファッサンがいつまでも食い下がるので、きっぱり意思表示しなくては!
レディーらしく、冷静にファッサンに伝える。
「ファッサン。残念だけど、私はママの手伝いもあるしツアース城へは行ってられないわ」
「うーん……まぁ、確かにあんたのおてんばっぷりじゃ、城主さまのメイドなんてとても無理だとは思うけど」
「…………あぁもう、ホント失礼ね! 私だって城主さまのメイドくらい出来るわよ!」
私の堪忍袋は思っていたよりもずっと小さいみたい。
つい、ファッサンの言葉に反論してしまった。頭に血がのぼってしまい、ファッサンがニヤリと笑ったことにも気がつかなかった。
「ほぅう、そうかい。それなら3年くらい行ってきたらどうだい。……あっ、さすがに3年ももたないか、せいぜい半年もてば良い方かね」
「だから! 本当に失礼ね! 3年と言わず、ずっと勤められるわよ!!」
「だ、そうですよ」
ニヤア~と笑うファッサンの視線が私とママを超えた先を見ている。
私がファッサンの視線の先を追うと、伝令板に貼ってある募集チラシを大量に持った兵士が泣きそうな顔で立っていた。
兵士と目が合うと、泣き笑いのような表情でずんずんとこちらへ近づいてくる。
こ、怖い……っ!
「い、今の言葉は本当ですか!! うちの城でっ、本当に働いてくれるんですか!?」
「ぅえっと……」
兵士の目には今にもこぼれ落ちそうなほど涙が溜まっている。
見たところ、私とそんなに歳が変わらないような風貌をしている。
「ずっと、
どうしよう!? え、どうすればいい!?
思わずママに助けを求めようと、そっちへ顔を向けた。
それと同時にママはゆっくりと私から顔をそらす。
……あ、何か兵士の人の気持ちがわかったかも……。
こうなったら、もうやけくそだ!
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
兵士に向かって勢いよく頭を下げて挨拶をした。
私の後ろから「やったー!」というファッサンの楽しそうな声だけが虚しく響いてきた。
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