第26話 生きる為に背負うモノ

「逆にこっちが聞きたいっすよ……俺のプログラムなんて爺ちゃんにちょこちょこ手ほどきを受けた程度っすよ? 本当にが改良出来ないってんですか? 本職のエンジニアが?」


 彼の言葉が真実なら……彼の認識とは違うが“教授の技術とは伝承されている可能性がある”という事だ。


「いいだろう。君が自分の事をどう認識しているのかは抜きにして……私がここに来た目的を話す。まず君の先日のバトルレース……見事だった。立体機動の少ないローカルレースとはいえ……君が操る電撃戦車ブリッツパンツァーの動きは頭抜けていたよ。世界チャンプだった私から見てもね」


「あんな賭けレースを見たくらいで……いったい何が言いたいんすか? 」


 彼は……どうも私に対して隔意があるようだ。たしかに祖父が生死不明の時に突然現れた知り合いなど“素直に信じろ”と言うのが無理だろう。しかし、彼が私の訪問をどんな風に受け取ろうと……必要な事は伝えねばならん。


「私はね、生前……いや逆巻教授の生死は未だ不明だったな。以前に君の祖父である逆巻鐵蔵氏を訪問した際に君の事を頼まれていたんだ。君が望むなら『孫の望む未来に手を貸してやって欲しい』と……そして私はその申し出に条件を付けた」


 ……そんな顔をするな。あらゆる干渉に不服を抱くその表情は……佳織先輩を思い出すじゃないか。


「何です、その条件ってのは? いや、その条件ってのが何にしろ……爺ちゃんはなんだ。もうその条件とやらを満たす事は無理っすよ」


 フン……君の目はそうは言ってないが?


「私も……今朝のニュースで教授が生死不明だと知るまではそう思っていたさ。だが、君のレースでの操縦を思い出して考え直した。あの操縦は『今までのアストライア均衡を操る女神とは違うのでは?』とね。事実はまた少し違った訳だが……」


 その表情……私が提示した条件に察しがついた様だな。


「爺ちゃんは……俺が電撃戦車ブリッツパンツァーに手をいれるを整備するのすら渋い顔してましたよ。渋い顔はしても好きにさせてはくれましたけどね。で……もしかして貴方が爺ちゃんに出した条件ってのは?」


「君の様な勘のイイ奴は……話が早くて助かるよ。そう、私が出した条件はだ。それは……図らずも君が電撃戦車ブリッジパンツァー行った事その物だった」


 頼むから“またそれかよ?”って顔をするな。君はどれだけの人間がを必要としているかを知らんだろう?


「ただし、君が電撃戦車ブリッジパンツァーに施したという改良が“私達の求める方向性と合致するか?”が分からない以上……今の時点では君が教授の代わりを務められるかは未知数だ。それに……」


「……それに?」


「私が出した条件は“教授の孫である君を助ける為の条件”だ。北石HOPEXとの諍いにには君の手持ちのカード改造アプリだけでは不十分だ」


 うん? 私の話は彼等にとって“救い”と考えるには厳しい内容だったはずなのに……彼の表情は力強いままだ。


「で……俺は何を差し出せばいいんです? 貴方は無駄な会話に時間を割くほど暇じゃない筈だ。?」


 ― ゾワッ ―


 今まで……多少利発には見えても、年相応の青年であった彼の背後に……初めて彼のが見えた。


(この子は……やはりお前と佳織先輩の子だな哲哉)


「いいだろう。君には私が理事長を務める学園“未踏地域開拓特派員養成高等学校”の特待生試験を受けて貰おう。当然、君にはで入学試験首席合格者の立場を取って貰う。勿論、入学後には今のブリッツパンツァーのアプリをベースに新たなアストライアを開発する手助けをしてもらうが……そんな事は今更だな」


「俺みたいな若造に……随分なを求めますね?」


 ふん……


(自分には無理だと思う様な奴なら……はしないさ!)


「なに……その程度の事が出来なければ、とても他の理事に“今後の開発事業への寄与が見込める人材”として説明出来ないからね。前払いとして……北石HOPEXへの対処は私達事業団が請け負おう。さあどうする? 君の未来、街の未来、祖父の名誉……全部を背負うと言うなら……の力を示さねばならないぞ?」

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