第25話 最初から金を作れよな

「まったく……爺ちゃんに聞いたんすか?」


(ほう……?)


 かなり発言をしたつもりなんだが……動じる様子すら見せんとはな。


(それとも……そもそも隠す気が無いのか?)


「ずいぶんとあっさり認めたね」


 恩師の孫であり尊敬する先輩の息子は、何故か整えようとしていた髪をまたクシャクシャにかき回して……


「まさか、偉大なチャンプである貴方が……そんなフカシ冗談を真に受けてんじゃ無いでしょうね?」


 ………何?


「ほう、君が……いや君の祖父にあたる逆巻鐵蔵さかまきてつぞう教授が、いわゆる『錬金術』という特殊能力を持つ人間である事は……君のが教えてくれた話なんだがね」


 おっ……年相応に困った顔を見せるなんて、思ったより可愛げがあるじゃないか。


(なるほど、その表情からすると……私と両親との繋がりまでは知らなかった?)


「まったく……いい大人が何を言ってんだか……あ、これはチャンプにじゃねぇよ、ウチのおふくろの事。なあチャンプ……爺ちゃんが“ワシは異世界から転生した錬金術師じゃ!”ってのは、酔った時の鉄板ネタって奴で……まあ簡単に言ゃぁ“酔っぱらいのタワゴト”だよ。だいたい……アンタだって爺ちゃんが使?」


「ふむ……何でそう思うんだい?」


「そんなの……俺でも見た事ねぇからさ。だいたい借金だらけの錬金術師なんか笑い話にもなんねぇよ。出来るってんなら最初からきんを作ってくれっての」


 なるほど、彼は私の言った事を誤解している。思い返して見れば……確かに言い方が良くなかったか。


「君は誤解している。私が言いたいのは……」


「なんすか? アストライアジャイロアプリを作ったのがウチの爺ちゃんで……金取らずにバラ撒いたからっすか?」


「そこまで知っているのかね?」


 驚いた……教授はそんな事まで伝えて……


「この前に事務所で話してたのが聞こえたんすよ。でも、チャンプこそウチの爺ちゃんを誤解してるんす。俺には分かる……爺ちゃんがアレアプリをバラ撒いても金を取らなかったのは“そんな価値ねぇ”と本気で思ってたからっす。なんつうか……作った本人からすれば、アレはまだ“未完成の欠陥品”なんすよ」


「馬鹿な……君は人類があのアプリアストライアに受けた恩恵を良く分かっていないからそんな事が言えるんだ。だいたい……土曜のレースに君が勝てたのだってブリッツアストライアパンツァー開発試作機の恩恵じゃないか!」


「そういや……ブリガンダー野良レースの事もバレてんでしたね。まあ……クソ親父や母ちゃんを知ってる人間には隠せねぇよな」


「そういう事だ。君もブリッツパンツァーに乗ったなら分かるだろう? あのアプリが無ければ多目的多脚探索重機モーターゴーレムはとても操りきれる物では無いと……」


「そうっすか? でもあの電撃戦車ブリッツパンツァーのアプリだって、俺がいろいろと……なんすよ?」


 ………?

 ………???

 ………???????


「!!! なんだって? !!!」


 テツオが慌てて耳を塞いだ。事務所からは何事かと驚いた住人達が顔を出すが、そちらはテツオが手を振って事務所に引っ込ませてくれた。


(いかん。思わず大声を……いや、それにしても、彼の言った言葉は簡単に聞き流すわけにはいかんぞ?)


「改めて聞くが………本当に君が改良リプログラムしたと言うのかね? 今まで世界中の研究者がソースコード命令文一つ解読出来なかった……あのアストライアを?」

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