第24話 未踏地域開拓特派員養成高等学校とは?

「……変なヤツ」


 自分の事を棚に上げた感想を一つ残し……彼女は案内図の前から離れていった。今日この場に居るという事は、彼女も推薦試験の受験生なのだろうが……

 

「行くか……」


 さほど興味も引かれなかった俺は、自分も試験会場に向かう事にした。案内図のおかげで試験会場の場所は分かったがこの学校は広大過ぎる。早く移動しないと……“理事長推薦”を受けている身として、試験に遅れては洒落にならない。


 この“未踏地域開拓特派員養成高等学校”(名前が長過ぎるので“開拓員高校”などと縮めて呼んでいる者が多い)……要は人がまだ入植出来ていない地域に『モーターゴーレム』で乗り込み、開発の先鞭を付ける“職人”を育てる学校だ。


 人によっては「この地球上にそんな場所がまだ残ってるのか?」なんて思うかも知れない。だが、実はこの地球上で人が安定的に居住する場所はそれほど多くない。夜の地球を宇宙から観測すれば“人の灯火”が驚くほど片寄って存在する事に気づくだろう。


 確かにモノ好きな人間は地球上のあらゆる場所に足を運んでいる。だが、それは逆に「通り過ぎただけ」とも言えるのだ。


 森林の奥地、深海、高山、極寒の極地に灼熱の砂漠地帯、危険なガスが噴出する離島に、未だ人類が知り得ない鉱物が眠る深々度洞窟……人が生身で活動するのが極めて難しい場所はいくらでも存在する。


 まあ、実際は人が住む場所を増やす事より、今まで地理的な要因で採掘を見送られてきた資源の回収計画を構築するのが“開拓員”の主な仕事だったりするのだが……


 ― キキィッ ―


 この学校の存在理由を思い出しながら歩いていた俺の少し先で、学内を巡回するバスが停まった。


 俺は慌てて走り寄って締まりかけのドアを手で掴み……車内に身体を滑り込ませた。


――――――――――


「さて、このままでは逆巻教授をはじめとする“地域解体業組合スクラップリージョン”の人達は北石HOPEXの奴らにいいように悪者に仕立て上げられる……というのは分かって貰えたと思う」


 ― ズズッ ―


 真唯駆マイク・アインホルンは……木村さんが淹れた熱いお茶を啜ると、あの大きな声で俺達に向かって話し始めた。


 正直……俺達には上手く状況が飲み込めていない。そもそも……何故アインホルンが突然やって来たのかすら俺達には分かっていないのだ。


 俺は、事故現場に急遽向かったせいでこの場に居ない凛の親父さん副組合長に代わって、彼の話を聞く為に関係者達の前に立った。


 本来ならこういう事は大人に任せるべきなのだろうが……先日の訪問の事を考えれば、彼は恐らくウチの爺ちゃんの知り合いだ。全く知らない人間が話すよりは少しはマシだろう。


「ちょっと待ってくれよチャンピオン……さっき契約がどうとか言ってたよな? あれはどういう事なんだよ。もしかして……あんたが爺ちゃんと話してたのって……その契約とやらの事なのか?」


「ふむ……テツオ君だったな。ちょっとこっちに来たまえ……」


「えっ……何……?」


 俺はチャンピオンに無理やり肩を組まれて集会所の外に引きずられて行った。


「皆さん……少しだけ時間をいただきます。お茶でも飲んでゆっくりなさって下さい。ああ、そちらの麗しいレディ……お名前を伺っても?」 


 ― ……ぐもぅっ ―


(ちょっと待てチャンピオン! 息が詰まる……ちゃんと歩くから離し……)


「私? 木村祐子ですけど……」


「祐子さん! 貴方のお茶、とても美味しかった。後でもう一杯頂けますか?」


「ええ!! もちろんです!!」


(何をいい笑顔で見送ってんだよ! 助けてくれよ! ねーちゃん!!)

 

 この男、最後に発表されていた公式記録では身長190cm体重は110kg超えていたはずだ。俺はなんとか抗議しようとしたが……その労力は無駄に終わり、結局筋肉ムキムキのオッサンに外にしまった。

 

「さあ……ここなら周りの目を気にする必要も無い」


「何するんすか? こんな強引に引っ張り出さなくても……」


 俺はグシャグシャになっちまった頭を引っ掻いてチャンピオンに抗議した。


「それは失敬……周りの人には聞かれたく無かったものでね」


「いったい何をです? 契約の事なら……」


「ああ……。クククッ、北石の奴ら……今頃大慌てで会議でも始めてんじゃないか?」


「……はぁ????」


 アンタ……何やらかしてんだよ?!


「マジかよ……じゃあ事業団が助け舟になってくれるってのも嘘なのか……」


 ……なんだよ……急に改まった顔で……?


「そいつは……。実は……俺がスケジュールをやりくりしてここに来る時間を作ったのは、教授の事故を知るの事なんだよ」


 ??? 


「……どういう事っすか?」


「そうだね……そろそろ腹を割って話そうじゃないか、“稲妻兄弟ブリッツブルーダー”君。いや……最後の錬金術師の末裔金属の魔術師と呼んだ方が良いかね?」

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