第20話 伝播


 ― BuBuBuBuBuBuBuBu,! ―


 私はベッドデーブルを盛大に震わせる端末スマ―トモバイルに根負けして、振動を続ける薄い板を手に取った。


 起動して最初に目に入ったのは時間、丁度深夜の2:00を表示している……という事は二時間は眠れたという事か。


そして、その下に表示されるコールサインを見て……一瞬そのコールをそのまま切断カットしようかと悩む。実際カットアイコンにもう5ミリで指が触れる所まで手が動いたのだが……結局私はコールに出てしまった。


「……今何時だと思っているんだクラリス」


『……学長!! そんな事より!!! 0:00配信のレースチェックしました?』


 ……?


「いや……最近はBriganderチャンネル自体滅多に見て無いが?」


 まさか……そんな事でこんな時間にコールしてきたのか?


「クラリス……君、たしか明日月曜日は朝から講義があった筈では? こんな時間まで起きて動画を漁ってるなんて関心しな……」


電撃戦車ブリッツパンツァーが走ってます』


………… 

…………? 

………?? 

……???

?????????


「なんだと?」 


 部下の報告の意味を理解した私はベッドの上で跳ね起きた。こんな勢いで覚醒したのはパドックで居眠りして予選に遅刻しかけた時以来だ。


『だから!!! 哲哉さんの電撃戦車ブリッツパンツァーが“#BadSpeedBrigander”に出場してるんですよ!! カラーリングは違うみたいですけど……あれは哲也さんのマシンに間違いありません!』


 夜中に叩き起こされた所に弩級のニュースをぶち込まれた私は、思わず……


ごじゃっぺ言うな!いい加減な事言うな!


『……? 今なんて言いました??』


 地元の言葉で叫んでしまった。いかん……


「……何でもない。それで、パイロットの素性は……いやがそんな情報を漏らす訳が無いな」


 奴ら……やらかしてる事は大胆なくせにそういう所情報管理だけは徹底してるからな。


『そうっすね……とりあえず学長も一度動画を確認してみて下さい。』


「分かった。確認して折り返す」


『お願いします……あ、一応報告しときます。多分……パイロットは哲也さんじゃないと思います。私の記憶とは余りにも挙動が違うんで……』


「……分かった」


 私はそれだけ答えると接続をカットし……急いでチャンネルを立ち上げた。


 ――――――――――


「おいおい随分と懐かしい名前やないか! そいつ……ホンマに“電撃戦車ブリッツパンツァー”って名乗ったんやな?」


「知ってるんかお父ちゃん?!」


 なんや口元抑えて……お前の素なんかとっくにここにるもん全員知っとるがな。


「まあな……でパイロットはどんな奴や?」


「随分とお若い方でしたわ。多分……10代半ばかと」


 あいつやとしたら40歳は過ぎとるはずや……やっぱりこっちと同じでしたんか?


「それか全く別人のセンもあるか……はっ、面白なってきよった。ワレ今度こそ引導渡したるからなポンコツが……」


 ふと見ると……娘が小さくこまーなって震えとる。なんやちょっと興奮しただけやんか……たいそな大袈裟なやっちゃで。


「雅! なにしとるんや? 赤い猛獣ロッターレオパルトの事は気にせんでええ……それより、さっさとスケジュール組んで昇格せぇ。同じ相手とマッチングするんは一戦交えたクラスやと難しむつかしからな! リベンジは次のクラスでや!!」


 これは……建機メーカーとしてのワイらの誇りの問題や。このまま……12年前みたいに負けっぱなしでは終わらせんからな!!


 ――――――――――


 ―西暦2096年7月某日―


 H海道 U炭鉱跡地


『今から二世紀ほど遡った時代に開かれたこの炭鉱は、他県の炭鉱と比べても豊かな埋蔵量を誇り、その最盛期には十万人を超える人口を抱える大都市であった。


 しかし、日本が高度経済成長を迎える時期に立て続けにガスによる事故が起こり……また炭鉱としての寿命はまだまだ尽きてはいなかったが、その時代にはエネルギーの主軸が石油に移りつつあり、事故を繰り返す危険をおかしてまで石炭を掘るが無くなった事で……その寿命を終えた。


 その後……2000年代に入ってより“コールドベッドガス”と呼ばれる炭素由来のガスの採掘に成功し現在に至っている。ちなみに……2096年現在も細々とだがガスの採掘は続いている……』


 という感じで、ワシらの手元に配られたデータの冒頭は、この炭鉱の歴史がざっくりと記されていた。なるほど……コイツを作った奴は指示書が短過ぎると不安になるタイプなわけだ……


「で、その僅かなガスの採掘プラントを破壊するのが我々の仕事なのかね?」


「ええ逆巻教授……いや失礼、元教授でしたな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る