第18話 勝者の権利

「………?」


 意味が分からない……って顔だな。


「そんなに難しい話じゃねぇよ。ウチのマシンブリッツパンツァー……馬鹿みたいに燃費が悪くてよ。あのままレースを続けてたら……確実にゴール前で燃料リソースだろうな」


「なっ???」

 

 おいおい……驚き過ぎてハニワみたいな顔になってるぞ。笑いそうになっちまうから勘弁してくれ。


「まぁ、あのまま続けても……引き分けに持ち込む自信はあったがな」


 鉄塔の上のコーンを俺がゲットすれば……たとえガス欠燃料枯渇で止まろうと、向こうはスタート直後のコーンまで逆戻りしないとゴール出来ない。


「いくらすげぇシステムW.E.S.を積んでたって……流石に燃料が持たねぇだろ?」


 ― ふぅ…… ―


 大きな溜息を一つついた姉御(そろそろこの呼び方は止めたい)は……


「つまり……どっちにしても『私達の勝ちは無かった』という事ですね」


 何か張りつめた物が消えた様に晴れやかな表情になった。


「あの時点だったらな。こっちはスタート直後からヒヤヒヤしっぱなしだったぜ」


「フン……」


 ― バシュ ―


 その時、ノックも無くメディカルルームのドアが開いた。入って来たのは仮面を貼り付けた執事と……


「どうした? コクピットから下りた途端に倒れたらしいな」


「姐さん!!」


 錠太郎と……多分姉御のチームでオペレーターをしてた人だな。しかし……姐さんねぇ。


「おう。ちっとシートが合わなかったみたいでな。ま、もう少しマシなシートに替えるさ」


「騒々しいですわよ。メディカルチェックなんて何時も受けているでしょう!」


 ……オペレーターさんと、ついでに錠太郎までがあっけに取られている。なんというか……彼女の切り替えのギャップは破壊力が凄い。


「では……パイロット御二方のメディカルチェックは終了いたしましたので、お揃いの皆様も含めてお伝え致します」


 騒がしく再会の挨拶を交わす俺達を、熟練の教師の如き手際で遮った裁定人スカンジウム……


(さすが……人を仕切るのが上手いな)


「まずはチーム“赤い猛獣ロッターレオパルト”様。同チームの所有マシン『ロッターレオパルト』の所有権はこれよりチーム“稲妻の兄弟ブリッツブルーダー”へ正式に譲渡されます。そして今回のレース配信で発生する報酬の7%が稲妻の兄弟ブリッツブルーダーです」


 姉御と……子分(?)らしき人がスカさんの言葉を黙って聞いていた。そう……このレースが何故Brigander盗賊を冠するのか? これがその答えだ。


(負けた奴は全てを奪われる……勝者総取りオール・オアの不文律・ナッシング……か)


「そして……チーム“稲妻の兄弟ブリッツブルーダー”様。勝者には権利がございます。即ち“ロッターレオパルト”を御自分の手元に置くか……運営本部我々に託しオークションに掛けるか……の権利が!」


 おい……それはココで言わないと駄目な事かよ!? 二人の目が……真っ暗な空洞みたいになってんじゃねえか!!


(やめろ……そんな目で見るなよ?!)


「さあ、遠慮はいりません。貴方は全てを賭けて勝利を掴んだのです。新たに手に入れたマシンに乗り換えるも自由。はたまた愛機に新たな力を加える為のとするのも一興!」


(だから止めろって!! 二人の瞳が古井戸の底みたいになってんじゃねえか!!!)


「いや……どっちも俺達には必要ねぇ。オークションに掛けるから本部で回収してくれ」


 俺は当初から予定していた通り、ストレートに現金に替える選択を採った。乗り換えは気が進まないし、本格的な改造カスタムは俺達程度の知識じゃ余計な改悪にしかならねぇ。現金に替えるのが一番無難だし……


「姉御!!」


「アホ! はしゃぐんやない!!」


 二人がホッとしてバタバタしている。


(オークションに出しときゃ……姉御達が取り戻す可能性もある。これまで四連勝してるんだからな。それなりに資金だってあんだろうよ)

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