第16話 決着

「……御二方の前に表示された仮想バーチャルスタートラインが、グリーンになった瞬間をスタートとします。ゴールラインは元々設定されている地点、特例として仮想円錐指標バーチャルコーンはお二人がスタートした時点で取得したと見なし、先にゴールラインを過ぎたチームが勝者です。よろしいですね?」


 ヘッドセットから聞こえるのは、裁定者ゲームキーパーの“スカさん”が急遽設定した“我が望むは完全決着ショウ・ダウン”のルール説明だ。


 そして、そのアナウンスを聞きながら……俺と姉御のマシンが、モニターに表示された仮想現実上のスタートラインを前に、それぞれのスタート姿勢をとった。


 ここには本来のドラッグレースの様な厳密なスタート機材は用意されていない。


 したがってスタートのルールは、結局それぞれの意見を取り入れ、カウントダウンが終わる前に“”だけをルールとした。


 逆にゴールは機体最先端がゴールラインに先に接触した方……というシンプルなルールとなる。


『ああ!! 分かってる!』


『さっさと始めぇや!』


 俺と姉御の声がオープンチャンネルに乗って響く。俺はオープンチャンネルを視聴オンリーに切り替えた。


『お前の作戦は分かってるけど……大丈夫なんだろうな?』

 

 スタートの直前……チャンネルを戻した瞬間に錠太郎の心配そうな声が聞こえてきた。多分俺に話しかけた訳ではない。おそらく老婆心から漏れた独り言をマイクが拾っただけだろうが……


「……さあな? なるようにしかならねぇさ。一つ言える事は……あのまま勝負してりゃって事だけさ」


『……バカヤロ……勝てよ!!』


 独り言を聞かれた照れ隠しなのか……激励だけでマイクを切っちまった。


 俺は悪友のボヤキに少しだけ苦笑して……モニターに視線を固定した。


(やれるだけの手は打った……あとはコイツ電撃戦車を信じるだけだ)


 ――――――――――


『私見ですが……今日のレースは近年稀に見る白熱した勝負でした。終わってしまうのは誠に残念ですが……その締め括りを私がお手伝い出来る事を運命に感謝します……Are you準備はready?!いいか?!


 ― 10…9…8… ―


 カウントダウンが始まった。


 スカさんの声と共にモニターに表示された数字が減って行く。隣では姉御が操る“赤い猛獣ロッターレオパルト”がさっき見せた低い姿勢(ダッシュフォームとでも言えばいいのか?)に変形していた。既に排気口の周囲の光景が熱で歪むほどジェネレーターを回している。


 俺は……最後に残った僅かな燃料リソースで、電撃戦車ブリッツパンツァージェネレーター2st・D・Tを始動し、一気に限界回転数レッドゾーンまでアクセルを全開にした。


 排気を押し込まれたタービンが大気を強大な力で圧縮し、燃焼室に本来の体積の何倍もの空気を送り込む。燃焼室に直接噴射された燃料リソースが、加圧され高温になった空気と混ざりあって爆発……分厚いピストンを押し下げ、出力軸クランクシャフトに巨大なトルクを発生させた。


 ― ガリガリガリガリガリガリッ! ―


 クラウチングフォームをとった高精度ハイプレシジョン強腕力ハイトルク油圧制御触腕マニピュレータが地面を掴む事でブレーキをかけ、駆動脚が地面をスタートに最適な角度に削り終わった瞬間……


 ― …0!!! ―


 地面に押し留められていた鋼色の巨人ブリッツパンツァーは、地面を抉る程のマニピュレーターの力と、最適な角度で噛み合った駆動脚のキャタピラによって……


 撃ち出された砲弾の様にその場から弾き出された。


 ――――――――――


「これは……どうも意外な結果に終わりましたね。まさか四脚駆動の赤い猛獣ロッターレオパルトが二脚駆動の電撃戦車ブリッツパンツァードラッグレース加速競争で敗れるとは……」


 終わって見れば……圧倒的不利の予想を見事に覆した電撃戦車ブリッツパンツァーの圧勝だった。


 そして、アシスタントリーダーを務める部下はその結果を意外だと感じているらしい。


「ふむ……確かにスペック上はロッターレオパルトの方が多少有利だったかも知れませんが……貴方は大事なスペックを一つ見逃していますよ」


 レースが終わり、外ではスタート前に彼等と交わした契約どおり、が行われている


「……? どのスペックの事です?? 」

 

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