第15話 白黒つけたろやないか!?

『よう姉御。あんた……やっぱすげぇ人だったんだな。俺はこのレースの準備に掛けたってのに……レースもの今になって、状況はやっとこさ対等イーブン……って程度だもんよ』


 あいつ……ウチがコンベアルートから外に出てきたのを見計らってから、オープンチャンネルで話し掛けてきよった。ここで応答する義務は全くあらへんけど……無視したらそれはそれで逃げたみたいに見えるかもしれへん。


(クソッ……舐められてたまるかい!)


『はん……ルーキーがえらいナマ言うやんけ。ホンマに対等かどうか……今すぐアソコに登ってシロクロつけたってもええんやで?』


 ウチは鉄塔の上に表示されとる仮想円錐指標バーチャルコーンを指してハッタリをかました。正直に言えば……あの鉄塔を登る勝負ではこちらに分が悪い。


『ハハ……いいぜ! 決着つけよう……って言ってもいいんだけどよ』


 ウチはロッターレオパルトの操縦桿に力を込めた。奴が動いた瞬間にこっちも……


(不利がどうした! ヤツかて鉄塔登りが本職やない。隙が出来たら儲けもんや!)


『正直、鉄塔を登るのは苦手じゃねぇよ。俺が何処を走ってアンタを抜いたか覚えてんだろ?』


『グッ……』


 そんなん……こっちも分かっとるわ。


『だけどな、俺もがあるからさ……最初のレースを“木登りで勝った”とか言われんのは嫌なんだ。って事でさ、ちっと競技規則レギュレーションのシチュとは違うけど……?』


 ウチはそこまで聞いてやっとヤツの言いたい事に思い当たった……と、同時に……


 ― ブチブチブチブチッ ―


 ウチの目の奥で……何かがまとめて千切れる音が聞こえた。


『……はあん? ぽっと出のルーキーがエラい舐め腐ってくれよるやないか……ウチにかけるつもりか? アアッ???』


 モーターゴーレムのレースに手を染めてから4戦……物心着いた時から十数年。ここまで舐められたんは……ゾウ組のマコトと勝負玉入れして以来じゃコラ!


『ええやろ……タイマンでブッ壊したるわ!』


『おっと……タイマンはこっちも望むとだけどよ……ガツガツやり合って、もしかしたらお蔵入りにされちゃ困るじゃんか? で、俺から提案。おっと……これオープンチャンネルだからスカさんも聞こえてんすよね?』


〚……………………はい。ゲーム中の全通信チャンネルでのやり取りは、運営側が常に記録しております〛


『そいつは手間が省けるな……俺と姉御が我が望むは完全決着ショウ・ダウンに合意したら……勝利条件をお互いの合意で設定可能っすか? 例えば……一定距離の走行で先着した方の勝ち……とかさ?』


〚ふむ……? それはつまり……〛


 ヤツの提案を聞かされた運営の仮面野郎が……あまりにも条件に声を失っとる。 

 

『ちょう待てや……おんどれ……それはつまりウチと……』


 確かに……あの道化モンが口に出すんを躊躇う意味はよう分かる。なんせ、あいつはでもの手前でもウチにんやからな。


『そうだよ……!』

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