第14話 疾走

『あれやお嬢! あそこに先に飛び込んだら……もう絶対に負けへん!!』


「わかっとるわ! 」


 ヘッドセットから伝わる絶叫を一括……操縦桿にあるキーパッドにコードを入力する。


「ウチらの本気を見さらせや!」


 ー ガパンッ ―


 モード変更の命令を受けたウチ等のマシンが……動力脚を機体に沿わせる様に固定する。目的は機体の姿勢を極限まで低く車幅をワイドにする事。結果……真紅の猛獣ロッターレオパルトは、獲物に飛び掛かる猛獣の様な姿勢に変形した。


「これやるとのう……障害物を機能は使えん様になるけどな……今まで浮いてもうてたキャタピラ駆動力使んじゃ!」


 ― ヒイィィーーーーンッ ―


 そして……変形と同時に動力を接続された機械式過給機スーパーチャージャーが、ジェネレーターに送り込まれる空気を暴力的に加圧していく……


「見さらせ! ウチらが何でディーゼルと相性の悪い機械式過給機スーパーチャージャーえて使つこたか……その答えがこれや!」


 加給が瞬間……ロッターレオパルトが一気に加速した!


『どうやー! ワイらのジェネは低い回転数でも好きな時に加給でけるんじゃー!! お前らみたいな旧式が付いて来れるかー!!』


 リードした瞬間……チームのアホどもがマイクを切らずに大歓声を上げた。


(あいつ等……耳が痛いっちゅうねん!!)


 心の中で悪態をつきながらモニターを確認する。あの貧相な二脚駆動のマシンは……完全に加速競争に負けて遅れとる。これやったら間違いなくコンベアルートにはこっちが先に入れるやろう。


(ふう……なんとか勝った……か……)


 ベルトコンベアにアプローチする入り口に飛び込んだ瞬間……ウチは薄く勝利を意識した。


 そして次の瞬間……猛烈な悪寒が背中を突き抜けた。


「待て…………やと?」


 ――――――――――


(ふう…………)


 俺は変形した赤い機体が猛烈に加速し、一つしかないの最速ルートに飛び込むのを見届けると……コンベアへのアプローチに至るルートから外れ、回転式掘削機械バケットホイールの巨大なアームを構成する鉄骨に飛び乗った。


 全長にして500M以上あるアームは、様々な角度で屈強な鉄骨が組み合わされて構成されている。中央から上に伸びた鉄骨には、前後のアームをバランスさせる為のワイヤーが張られ、操業を止めた今も強靭なワイヤーはその役割を果たし続けている。


「あんな不安定な高所に仮想円錐指標バーチャルコーンを置くとか……どう考えても嫌がらせだろ」

 

(まあ、けどな……)


 俺はブリッツパンツァーのカメラ越しに、コンベアの内部を進む赤い機体を見た。鉄骨の隙間から見える機体は……やはり思ったほど速度が上がっていない。


「やっぱりな。コンベアルートはトラップじゃねぇかと思ったんだ……」


 昨日……仮想円錐指標バーチャルコーンの配置がタブレットに表示された後、当然この廃棄されたベルトコンベアのルートがポイントになる事は簡単に予測出来た。


 奴等も当然入念に内部を通ってコースの最後まで下見を行ったのだろうが……


「狭い通路……老朽化したコンベア……大柄な四脚駆動の機体……そりゃあ思った様に走れるはずはねぇよな」


 それでも……あの通路では抜く事は出来ない。そう考えたんだろうが……


「俺が鉄骨の上を……とは思わなかったか?」


 それとも、流石にそんな離れ業は想像の外だろうか……


 (まあ……)


 ――――――――――


 コンベアに入った瞬間に襲った違和感……だが実際には問題があった訳や無い。


(はしても、そのままコンベアの上を突き進むしか無いわ……けど……)


 ウチは拭いきれん違和感を無視してアクセルを開けた。狭い走路の中をあちこち擦りつつもスピードが乗り始めた時……


『お嬢! 奴がに行った!! コーンの奪取を優先し………ああっ!! お嬢!! 急いで!!! 奴がっ?!?』

 

 通信の向こうがざわついた。舎弟どもの絶叫……奴等一体何を見たんや??


「……おい!! あのガキ何やらかしたんじゃ? ボケっとしとらんと説明せぇ!!」

 

 こっちも狭っ苦しいトンネルを性根据えてトバしとるんじゃ! そっちのザマなんぞ覗いとる余裕は……

 

 ― ガギギギギ………ギンッ ―

 

「……なんやと!!!」


 通信で確認する前に……ウチには“あいつが何をやらかしてんのか”が全部分かってもうた。


「あんガキ?! 何さらすんじゃ!!!」


 から伝わった“足音”で……奴が隙間だらけの鉄骨のアームを間違い無い。ただ……


「本気か?? いや、確かに行こうと思えば行ける……いや無理やろ! 行けたかてこっちより速いはずあれへん……」


 しかし……実際に足音はこっちを追い抜いて行きよった??


「知るかー!! 行ったら分かるわい!!」


 いつの間にか……無線からは何の音も聞こえん様になってた。ウチはジリジリしながらやっとコンベアの出口を抜けてゴールがあるアームの対岸に飛び出した。


「………嘘やろ?」


 そこで見たのは……


 ウチが奪るはずやったコーンを撃破する銀色の機体が……まるでみたいな動きで振り向く姿やった。


 ― ゾクッ ―


(なんやあの動きは??? あそこに立っとるんは……ホンマに機械か?)

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