#BadSpeedBrigander (ハッシュタグ - バッド スピード ブリガンダー)

第12話 勝利の為に支払うモノ

「ミスったって……どっちにしろこっちは残り二つのコーンを取らなきゃ勝てねぇんだ。それには露天掘り掘削器（バケットホイール）へ、たどり着く前に奴らを抜いて少しでもリードしなきゃ……」

　“#Bad Speed Brigander”は明確なコースが設定されている訳ではなく、毎回仮想円錐指標（バーチャルコーン）の配置によって導かれる順路は変わる。

　つまり土地や大型障害物（オブジェクト）の特性は分かっているが、そのコースを理論上最速で駆け抜ける“シミュレーション結果”を知っているのはコース設定を考えた本部の人間だけであり……本来は明確なレコードライン（最短記録走路）もコースレコード（最短走破記録）も存在しないのだ。

(そんなコースで……奴等に追（・）い（・）す（・）が（・）る（・）以外の対応策（手）があるってのかよ！)

『焦るな！！　お前と電撃戦車（ブリッツパンツァー）の特（・）性（・）をフルに使えば、かなら必ず先にバケットホイールにアプローチ出来る。策（・）を使うのはそれからだ！！』

「……分かった。やってやるよ！！」

　最初に立てた“先行逃げ切り”の戦略は、相手が打ってきた“コーンを放置する”という奇策で無に帰した。

　俺には錠太郎が新たに練った策は分からねぇけど……アイツが“出来る男”だってのはガキの頃からよ～く知ってる……それに……あいつを巻き込んだのは俺だからな。

（身（・）を（・）削（・）る（・）覚（・）悟（・）くらいで勝てるってんなら……いくらでも支払ってやらぁ！！）

「オーダー！　アダプション（アストライア）アストライア！（を選択！）コンバージョン（全身手動制御）マニュアルモード！！（へ変換せよ）」

　俺はヘッドセットからモードセレクトのキーワードを入力、“姿勢制御アプリ（アストライア）”の設定を全制御手動操作（オールマニュアル）モードに切り替えた。

　―　ユラッ……ユラァ……　―

　途端に……“電撃戦車（ブリッツパンツァー）”の機体が不規則に暴れだす！

「……おっと！！」

　俺は慌てて両手の操縦桿とフットペダル、ベルトで繋がった姿勢同調シート、指先に配置されたキーパッドに至るまで……“全ての操作系インターフェイス”を総動員して『機体（ブリッツパンツァー）の掌握』を開始する。

「こんなムチャクチャやんのは、納期ギリギリの仕事を抱えて現場（工場）の重機を全（・）部（・）同（・）時（・）に（・）操（・）縦（・）し（・）て（・）以（・）来（・）だぜ……」

　俺は……機体と身体を同調（シンクロ）させるべく、自分が知覚可能な全ての感覚神経を“巨人の身体感覚”へ補正していった。

　機体の重心に己の重心を重ね、マシンの揺らぎを計器より先に三半規管で捉える。オートバランスの介入より先に姿勢を修正……全ての操作を脳より先に反射で処理するべく“神経処理経路”のバイパスイメージを構築していく……

　何故自分にそんな事が感じられるのかは分からない。だが、何故かガキの頃から……俺には機（・）械（・）に（・）流（・）れ（・）る（・）生（・）命（・）の（・）様（・）な（・）物（・）が（・）解（・）る（・）の（・）だ（・）

　―　　カチンッ　―

　俺の中に……歯車が繋がる音が響いた。

　――――――――――

　この廃鉱山は回転するホイール（円形掘削篭）が半円を描く様に山肌を削り、その掘削跡が崩落を起こさない様、階段状に積み重なって出来ている。

　そして、鉱山の麓（ふもと）に相当する“スタート直後の平坦”以外は、ほとんどが上りと、たまに存在する下りを繰り返すアップヒル（登り）が主体のコースだ。

　幾らコーンの配置を散らしても、土台が地面である以上は基本の特性は変えられない……なのに……

「大半が登り（アップヒル）のこのコースで……重量ハンデが解消したこの“ロッターレオパルト（真紅の猛獣）”相手に……」

(こっちのマシンは四脚駆動（クアドラレグ）や……アイツラのマシンより地（・）面（・）に（・）伝（・）達（・）可（・）能（・）な（・）駆（・）動（・）力（・）は倍やねんぞ！)

　それなのに……？？

「なんでお前らがコ（・）コ（・）におるんじゃ？！」

　途中から……それこそ斜（・）面（・）を（・）這（・）う（・）様（・）に（・）機（・）体（・）姿（・）勢（・）を（・）落（・）と（・）し（・）て（・）か（・）ら（・）だ。

　急激に加速した奴等のM.G（モーターゴーレム）は、比較的状態の良い路面を選ぶ為に“スラローム（遠回り）“”しているというのに……何（・）故（・）か（・）ほ（・）と（・）ん（・）ど（・）減（・）速（・）せ（・）ず（・）……とうとうこっちのケ（・）ツ（・）に張り付きよった？！

「どうなっとんのや！？！　こっちの調子は悪ぅない……ジェネレーターを目一杯回してパワーは十分……燃料（リソース）が減って軽ぅなってるからコーナリングもこっちの方が速いはずやろ？」

　思わず……声がデカぁなってしもた。でも……

（こんな理不尽……あってたまるか！！　コイツ最初っからずっとM.Gのセオリー（こっちの常識）を何やと思とんねん！）

『ダイジョブやお嬢！　どうせ最後に残った燃料（リソース）で無茶しとるだけや！！　あいつ等がなんぼ無茶しくさっても……こっちが走路（ライン）を空けん限り掘削機（バケットホイール）へは到達出来んのやから！！』