第11話 最初からおかしいと気付くべきだった

「おかしい……こんなで追い付いてくるやなんて……理屈に合わへん!!」


 だいたい……最初はなからこのレースはおかしな事が多すぎやった。そもそも今回のレースはウチらの昇格スケールゲインが掛かったレースや。


(当然、同格か……のベテランが相手やと思とったのに……さんざん待たされた挙げ句に来たんが……バッキバキのルーキー??)


 ― チュイ……チュイン…… ―


 さっきから……駆動脚に装備された路面対応型アクティブ衝撃減衰機構サスペンション調整用電動機サーボモーターが鋭い擦過音を響かせてくる。コクピットから視認している以上に実際の路面がとる証拠や……


「やのに……なんでや?! なんでアイツらはこんな路面でのマシンより速い?」


 しかも……あいつ等がコロがしとるM.Gは10年は二脚駆動デュアルレッグや。例え最新バージョンのアストライア均衡を保つ女神が入っとったとしても、この路面をに走れるはずあらへん!! やのに……


 バックモニターに映る奴等のマシンは……こっちより多少はな所を選んで走っとる様に見えるが、足元の悪さはそこまで変わらんやろう? そやのに……まるで卓越したフィギュアスケーターがリンクを滑走するように迫ってきよる!?


「いや、おかしいやろ!! だいたい……道路でも歩けたら拍手モンのそのポンコツを……普通のアストライア均衡制御機構みたいに操れてたまるか!」


『お嬢! ここは辛抱です!! 今はのハンデがキツいさかいコース取りラインが苦しい。勝負は後半……W.ウォーターE.エマルジョンS.システムの乳化剤添加水と燃料リソースが減ったら……コース取りラインの自由度はダンチで上がるさかい!!』


(いかん……また頭に血がのぼっとった)


 ヘッドセットから響く若い衆舎弟の声が無かったら……またムチャクチャやってたかも知れん。


(たく……昔から理屈っぽいやっちゃで!!)


「心配すなアホ。京北地元の林道に比べたらこんくらいの路面荒れ地なんか屁みたいなモンや!!」


『若い娘が屁ぇって……お嬢……はしたないわぁ……』


「やっかましわ!!」


 そや、わてらこんな所でヤられる訳にはいかんのや。若いからってアイツらのテクを下に見とったのはこっちの落ち度やが……まだ最初に打った博打が効いとる!!


「なぁ、お前らはどうするつもりや? コースの最後……大型掘削器械バケットホイールの最高地点と、掘削駆体を先に設置されたコーンを? ウチらは一つ取ればそれでゴール出けるけど……そっちは


 ――――――――――


「何だよミスって?」


 確かに“電撃戦車ブリッツパンツァー”は旧型だけどよ……? そんな程度で油断なんかするか?


『簡単な事だ。俺達の事を客観的に見てみろよ……マシンは旧型で時代遅れの二脚駆動デュアルレッグ、機体は塗装すらされてないポンコツ、ジェネレーターに至っては、このバランスと即応性リニアリティ主流トレンドの時代に……2ストロークパワー偏重ディーゼル主義時代ターボの遺物だぞ? 極めつけはパイロットとオペレーターがガキ二人の極小チームプライベーター。……これで舐めて来なきゃ逆におかしいくらいだぜ』


 言われてみれば……姉御の見た目にすっかり勘違いしてたが、相手から見れば俺達はガキもイイとこだ。


「そんなもん……なのか?」


 ……俺にとっちゃああまりにも当然だから気にもしてなかったけど、


『ああ……あいつ等からしてみりゃ10


 そりゃ分かる訳がねぇわ。


『あいつ等……自分達が先行さえすれば多少コーンを取りこぼしても大型掘削器械バケットホイールまでに“自分達は必要数の仮想円錐指標バーチャルコーンを確保出来る”と踏んでたはずなんだ。それなのに、お前が想像以上のスピードで迫って来たから……多少コーンをスルーしてでも最短距離を行くしか無くっちまった。俺に言わせりゃ……!』

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