第6話 第二種接近遭遇……➁

「そっ……そんな事は分かってますわよ!! でも私達の方が先に到着しているのに……が先に説明を受けるなんておかしいですわ!」


(なんだあのおこちゃまは? もしかしてが向こうの操縦者パイロットか?)


 これから行うレースは、ただ“私有地内だから”というの免罪符だけが頼りの非合法レースだ。


 賭博合法国ロンドン胴元ブックメーカーを設置している事で曖昧にしているが、国内の法律に照らせば“合法か非合法か?”の判断は……大目に見ても黒のグレーといった所だろう。


 だが、ネット上で賭けをベットする奴らには、賭博に手を染めているという自覚すら乏しい……簡単に言えば大衆にとってこのレースは“少し刺激的な娯楽”程度の認識に過ぎない。


 だから……そんな黒とも白とも言えない場所にが居るのを見た俺は、


「おいおいガキンチョがこんな所で何やってんだよ……」


 思わずを漏らしちまった。


 ― ಠ益ಠ# ビシッ ―


 ……信じてくれとは言わない。だが、俺は本当に“ケンカを売るつもり”なんて無かったんだ。ただ、ほんの少し……ほんっの少しだけ独り言のボリュームが高かっただけで……


「何やて?!?!! ウチゃあこれでも二十歳ハタチこえとんじゃ!! オドレらみたいなジャリボンに舐められてたまるかこらっ!! おぅっ!!? なんとか言わんかいコラ!!! ワレの顔に付いとるその口は三つ目の鼻の穴かコラ????」


 結果……なんかやたらめったらラ行の多い罵声を凄いスピードで浴びせられてしまった……


 俺の隣で頭を抱える執事裁定者と、彼女のにあっけに取られる錠太郎。そして……その二人からジト目を向けられた俺は、自分の発言に責任を負うべく少女……ではなくて彼女の方に向き直って……


「なんか……ごめんなさい」


 誠心誠意の謝罪をのだった……


 ――――――――――


「それでは気を取り直して……今夜のレースにおける競技規則レギュレーションを説明致します。と言っても……皆様よくご存知かと思いますが、我々が執り行うレースには殆ど規則は御座いません。具体的には……」


 俺の不用意な発言で一悶着あった後……対戦相手のは、ある条件を飲む事でなんとか謝罪を受け入れてくれた。そして今は、改めて競技規則レギュレーションを共有する“パイロットミーティング”が行われている。


 裁定者の難解な説明は必要な手続きでもあるから仕方ないが……要約すると次の五つが規則の要項だ。


1、機体に使う燃料は主催者から供給される定量の燃料リソースのみとする。


2、機体重量はの本数によって最低・最大重量が決まる。


3、動力の始動以外に機体外部からの電力の供給は認めない。バッテリーの積載は認めるが当然最大重量をオーバーする事は認めない。


4、レースはコース範囲内に設置された“仮想円錐指標バーチャルコーン”を指定数する事が義務付けられる。仮に指定数の撃破を未達成のままゴールした場合、その場で失格となる。


5、対戦機体への攻撃はコクピットへの直接攻撃以外は全て。ただし、発射型の遠距離攻撃武装は認めない。どちらかの機体がレース続行不可能と判断された時点で相手の勝利が確定する。


 これらの詳細が裁定者仮面の執事から説明された後……


「以上の五つが主な競技規則になります。詳細な補足事項は添付したテキストデータにて御確認下さい。何かご質問等は御座いませんか?」


 最後に質問の時間がやって来た。


 俺と錠太郎は補足事項を含め、全ての項目に目を走らせた。と、言ってもこのレギュレーションは既にネット上に出回っている情報なので、やっているのは“既知情報との食い違いが無いか?”の確認だけだ。


 姉御(あれから色々とあって呼ぶ事を許され強要された……)に至っては一瞥いちべつしただけで、さっさとデジタルサインを終わらせている。


「なあスカさん……いくつか教えて欲しいんだが……」


 俺はレギュレーションの補足事項を確認しながら本部の裁定者に質問すべく手を上げた。


「……………………………何でしょう?」


 何だよその間は……呼び方気に入らなかった? 親しみを込めたつもりなんだけどな。


「ちょっと不思議なんだけどさ……このレギュレーションだと“モーターゴーレム同士のプロレス”にならねぇの?」


 そう……まどろっこしいレースなんかしないで“相手を直接ヤッてしまえばいい”と考える者が居るのでは?

 

「ふむ……お答えします。確かにそういう考えに至る者は一定数居ますが、現実的に考えて実行は難しいでしょう。仮に“相手の機体を壊す事に特化した機体”を用意したとします。対戦相手がレースを想定した機体の場合……まず間違い無く。更に我々が用意するコースは殆どが“使用範囲を指定した自然環境もしくはそれに準ずる廃棄された環境”のみです。このコースは……大袈裟に言えば対戦者同士が接近・遭遇しなくてもレースが成立してしまいます。実際は“コースレコード”を記録した順路ラインがありますので、無接触の試合は少ないのですが……」


 ……なるほど。確かに言われて見ればその通りだ。しかもコースの成り立ち的に一度通った場所は二度と通らない。これでは待ち伏せも出来ないな。


「ただし……極めて稀ではございますが、対戦者同士が同意を持って“相手の機体を破壊して決着を付ける”事を望む場合が存在します。その場合は……特別開示条項“我が望むは完全決着ショウ・ダウン”が適用されます」

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