第5話 第二種接近遭遇……➀

「親父の仕事に口出しするつもりはない」


 ちょっと意味深な返答を返す錠太郎。コイツも親父とは微妙な関係だからな……俺にとっちゃ好都合だが。


「まぁ、お前はもともと人の秘密をペラペラ喋る様な奴じゃねぇからな。そこは信用してんぜ」


 いくつかの牽引フックを機体に接続、それを確認した錠太郎が積載ウィンチのスイッチを入れる。ギリギリとワイヤーにテンションが掛かると“電撃戦車ブリッツパンツァー”はゆっくりとトレーラーの荷台に吸い込まれ始めた。


「フンッ 実際に公道を使って流通している物を全て管理・監視するなど不可能だからな」


 ― ガチンッ ―

 

「よし……ロック出来たぞ」


 俺は機体の固定を確認して荷台から飛び降りた。それを見た錠太郎は無言で荷台のカバーを閉じるスイッチをオンにする。本能的に操作出来るデザインのインターフェース操作盤とはいえ……


「流石に出来る男は違うな」


「こっこんな事は誰でも出来る!」


 と、錠太郎の返答は無愛想極まりない。だが、


「俺とお前がどれだけの付き合いか分かってるだろ? 耳が真っ赤だぞシャイボーイ」

 

「おいっ!!」


 本当のコイツは不器用極まりない男だ。だから俺はコイツに安心してを託せる。


「ハハッ 冗談だ。怒るな錠太郎、さあ……搭乗員席キャビンに乗り込めよ。はすぐそこだが、暫くはVIPシートを堪能させて貰おうぜ」


 ――――――――――


「はじめましてチーム“稲妻兄弟ブリッツブルーダー”様。私は本部から今回のレースにおける審判員ゲームキーパーとして派遣されました。“スカンジウム”と申します……以後、お見知り置きを」


 俺と錠太郎が到着したには……すでに巨大なトレーラーが停車しており、俺達の事を手ぐすね引いて待ち構えていた。俺達と“電撃戦車ブリッツパンツァー”を載せたトレーラーはプログラムに従って停車。


 そして……待ち構えていた裁定員を名乗る“仮面の人物”に挨拶を受けたところだ。いかにも上質に見える執事服バトラースーツを着込んだ、いかにも“お硬い”名前の男……


「失礼かもっすけど……あんた本当にあのチャンネルの人? こういっちゃなんだけど“リリースされてるレース実況”と雰囲気違い過ぎないっすか?」


 俺はどうしても気になった事を率直に質問する。あのハイテンションなレース実況はどう見てもこんな硬そうな人が作っているとは思えない。


「おお……それはそれは……貴方のお名前は?」


 男はいかにも風格のある執事を思わせる落ち着いた声で俺の名前を聞いた。


「……テツオっす。パイロットで登録されてる筈ッスけど」


 どうしてか……俺をまじまじと見つめる男……


「ふむ。それではテツオ様の疑問にお答えしましょう。まず、実況配信動画を編集しているのは私ではありません。あの騒々しい配信には私も苦言を呈しているのですが、やはりユーザー様の意向は無視し難い物がございまして……現状では既定路線にて進む事になろうかと存じます。そして組織には色々なタイプの人間が居て然るべき……かと。私に出来るのはこんなお答えのみですが……お赦しいただけますかな? テツオ様」


(なるほど………やっぱ色んな人間が関わって……って、今??)


「あんた……何で俺のフルネームを知ってんだ? エントリーシートにはそんなのフルネーム書いてねぇはずなのに?」


「勿論存じ上げておりますとも! このスカンジウム……僭越ながらテツオ様が産まれるはるか以前からこのに関わって参りました。当然この“電撃戦車ブリッツパンツァー”がも存じておりますれば……」


(ついてる! 初めてのレースでいきなりに遭遇出来るとは!)

 

 俺は勢いこんで仮面の執事に一歩踏み出した……と、その瞬間、横あいからがぶっ飛んで来やがった。


「ちょっと! 何時まで待たせる気なのかしら?? ルーキーだからって礼儀知らずが許されると思ったら大間違いですわよ!!」

 

 そこには……真っ赤に茹だった顔で腕を組むが仁王立ちでこちらを睨んでいた。多分、の少女が……

 

 俺は思わず錠太郎と顔を見合わせ、次にスカンジウムと名乗る謎の執事に目を向けた。執事は……困った様に肩を竦めて、左手に光る時計を確認し……


「お言葉ですがバン・ホーテン樣……今はまだこちらのブリッツブルーダーチームへのレギュレーション説明をする時間帯でございます。たとえ貴女が現在四連勝中で昇格スケールゲインを掛ける強豪だとしても……いま暫くの間はお待ちいただかなくてはなりません」

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