第13話 野生生物なんて…地元じゃめっきり見れないですよね? 4
「詳しい話を聞こうか...」
改めてミネルヴァに報告を促す。
「まず、この村近辺の生物の分布が明らかに異常でした。本来ならソリッドボアはもっと北部の森林地帯にしか生息していません」
「たまたま迷い出てきたとは考えられないのか?」
「ここ数日での遭遇数や、他の魔物の分布異常も含めて考察すると考えづらいかと...北部の森林地帯で“何かしらの異常”が起こった結果、追いやられたと考えた方が自然です」
「なる程な...“異常の内容”に当たりはついてるのか?」
「この村に着いてから...定期的にエコーロケーションを応用した“
「それは...危険だな...今すぐ襲って来そうなのか?」
「いえ、あくまで現在の奴らは斥候部隊の筈です。ソリッドボアが追いやられている事を考慮に入れると...数百から千を超える規模の爆発的繁殖と予測されます」
「そいつはとんでもないな。予測到達時間と対処方法は?」
「斥候部隊が“痕跡の隠蔽”をした様子がありません。此方の出方を考慮していないという事は、恐らく24時間以内、習性から予測すると明日の日暮れを待って夜襲の可能性が高いかと...」
「...状況は最悪だな。対処方法は?」
「一番簡単なのは避難ですが...主殿だけならともかく村の住人も含めてでは、“身一つ”で移動する事になります。ゴブリンをやり過ごしても村は壊滅でしょう」
「...避難以外には?」
「〔
「帝国軍に使った手はどうだ?」
「元々ゴブリンは大した武器など持っていません。また武器がなくなれば素手に切り換えるだけで襲撃を諦めたりはしないでしょう」
まさに八方塞がりだ。
「全く、厄介な」
「...一つ、周辺環境に大きなダメージを与えずにゴブリンを根絶出来るプランがあります。ただしこのプランは村民の協力と後々の口止めが必須です」
「...説明してくれ」
そしてARモノクルを介して説明されたプランは...確かに最低限の影響で済むものだったが...
「...正直見たくない光景だな」
「...同感です」
「しかし他に“いいアイデア”もなさそうだ。とりあえず〔
「かしこまりました。お休みなさいませ」
「お休み」
こうして村の1日目は終わりを告げた。
――――――――――
翌朝、グンドルフを捕まえて大事な話があるので“村長に会わせて欲しい”とアポを頼み、同行してもらった。
「昨日はありがとうございました。今日はどういった御用ですかな?」
挨拶もそこそこに、村長とグンドルフに昨日ミネルヴァがしてくれた“ゴブリンの大量発生”の話をする。
「そいつは...一大事じゃないか!!! すぐに対策を考えないと...村長!」
「落ち着きなさい。例え
「しかし、それでは村は壊滅だぞ!!」
「仕方あるまい。命が最優先じゃよ」
二人が矢継ぎ早に話を進めて行くのを押し止める。
「待って下さい。僕の話を聞いて下さい」
そして...二人にミネルヴァの考えた“対策”を話して、その後の対応を相談する。
最初...“対策”を聞いた二人は、明らかに複雑な表情をしていた。
「それは...恐らくそれしかないんじゃろうが...相手がゴブリンとはいえ、なんとも言えん気持ちになるのお...」
「助けて貰う側から偉そうな事は言えんが...正直見たくない光景だな」
「僕も同感なんですが...見逃す訳にはいきません。それに向こうも此方を殲滅するつもりがある以上、反撃にあっても当然でしょう...
――――――――――
村長とグンドルフさんの二人に“対策”の説明をした後...村民が集められて村長の口から全てが語られた。
村民の表情の変化は、なかなか劇的だった。まず驚愕から...不安と恐怖、それから対処方法が有ることを聞いて希望、更に内容を聞いて困惑だ。
まぁ気持ちは分かる...
「話は分かったな。とりあえず自分たちの仕事から始めるぞ。ここにいない者に情報を伝えて、他の者は村外れの休耕地に全員集合だ...」
――――――――――
村長とグンドルフから全てが語られた後...村人全員で下準備を行い、夕暮れ前には必要な作業は全て完了した。
「なんとか間に合いましたね...」
一部の連絡要員を除く村人全員は中央の広場に集められていた。これは作戦終了までの間、村民の協力がいるからだ。
「それでは始めましょうか...全員隣の人と手を繋いで下さい」
僕は大きな声で全員に指示を出す。村人には既に“これから起こる事”が説明されているので皆素直に従ってくれる。
{ミネルヴァ、どうだ?}
{
{了解だ。続いて対象を補足する。索敵用意! 始め!}
{
ミネルヴァの通信を聞いた瞬間、視界に表示中の、自らを中心にしたマップに凄まじい数のマーキングが現れる。
{索敵完了! 対象は総数1021。対象はゴブリン種に限定、他・亜種、希少種、上位種もマーキング完了。スキルの時間差連続発動を設定。何時でも行けます!}
「皆さん!! 始めます! “エクスチェンジ”!」
スキルを発動した瞬間...“全住民”から
(なる程これは...確かに通常の集積では無理だな...)
この作戦を提示された時に聞かされたのは、連続発動する“エクスチェンジを支える為のエネルギー”が通常の魔力集積では賄えないという事だ。
そこで住民に“魔力の供給元”として協力して貰った訳だ。
通常、空間に漂う魔力を集積すれば既存の魔法を行使するには何も問題ない。
だが僕のスキル“トランスファー”には他の魔法にはない特徴がある。それは対象が生命体の場合、必要魔力が跳ね上がるのだ。これはスキルの“構成上の制約”らしくどうしようもない。
勿論多少の使用でガス欠にはならないが、今回は1000回以上の連続発動だ...とても“内在魔力”と“自然集積”だけでは賄いきれない。そこで...村人には“魔力タンク”兼“集積装置”として協力して貰ったとい訳だ。
そして...スキルの発動が始まってから連続で聞こえる轟音。
{
おっと...終わったようだ。さて...行きたくはないが...作戦の結果を確認しにいかねば...
――――――――――
そして...極一部の村人達が見張っていた休耕地へやって来た僕等を出迎えたのは...
スキル“エクスチェンジ”で約2メートルほど掘り下げられた休耕地、約50m×約50mには...夥しい数のゴブリンが“散乱”していた。
見張っていた村人達が青い顔で、
「
「そうですか...辛い役を押し付けて申し訳ありません」
今回の作戦の肝は、“迫り来るゴブリン”を、問答無用で『約100m上空に転送』する事だ。
そして...その対象地に選ばれたのがこの休耕地という訳だ。
今回は“満遍なく落下”するように、少しずつずらして転送するなど、なかなか凝ったスキル設定なのだが.....
見張りをしている村人からすれば....上空100mから次々とゴブリンが降ってくる光景はさぞ地獄絵図だったろう...
さあ、最後の仕上げだ。掘り出された土を対象にスキルを発動する。どんなに大量の土砂でも無機物なら魔力集積で事足りるのだ。
「エクスチェンジ」
発動と同時に大量の土砂は休耕地全体の数m上に転送され...ゴブリンの死体を埋め尽くした...
「多少気分は良くありませんが...これで厄介なゴブリンもいい肥料になるでしょう」
「え、ええ...そうですね...」
聞いていた村人達は...盛大に顔を引きつらせて曖昧な返事をした...
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