14.親と子! すれ違う理想

 アトムスがマンマリーを守った。

 どうして。

 そいつは悪の怪人で、ゾンビウイルス蔓延前にも子供たちの命を奪ったっていうのに。


 その子供たちの集合体がアトムスなら、どちらかといえば恨んでいるのが当然じゃないか。

 ──そうでなくちゃいけないような気さえする。


「……いや、見た目は僕たちと同じだけど結局は機械仕掛けだ。そう造られただけなんだろうね。すごく皮肉的じゃないか、自分たちを苦しめた悪人に改造されて守らなくちゃいけないなんて」


 僕が怒らなくちゃいけない。

 こんな仕打ちは間違っている。

 どうせ作るなら自分を恨むようにプログラムするべきだったんだ。

 自分が造ったロボットに殺されたとしてもおつりが出るくらいの悪行をしでかしたのに。


「ソレハ違ウ。ミーハ自分ノ意思デ博士トイル」


「そう造られたからだろ!」


「人間モ同ジ。ドンナ親ダロウト、子ハ親ヲ愛スモノ」


「それはどうだろ。子供の僕にはよく分からないけど、愛さない権利だってあるんじゃないかな」


 アトムスに敵意はない。

 蜘蛛の糸は引きちぎられたけど、拳はこちらには向けていない。


「アトムス。──……そうだ。私はアトムスの有用性を知らしめなければならない。鉄人の方が魔法少年よりも歪曲者ほふるのに適していると」


 我を忘れていたマンマリーの瞳に力が宿る。

 使命に燃えていた。


「博士。モウ辞メヨウ。カケルタチハ友達。傷付ケナイデ欲シイ」


「傷付けるんじゃない。一緒になるんだ。アトムス。──君は子供たちの理想郷だ。誰にも汚されない、犯されない子供たちの楽園。アトムスの中で子供たちの魂は清いまま永遠に生きて行く」


「──デモ」


「何故解ってくれない! 君が完璧になるのが私の救いなのだ。……それともなにか。私に汚名を着せたまま死ねと言うのか。子供たちの魂に呪われたまま」


『毒親。ヒスバアアが』


 くやしくもその言葉に頷いてしまった。

 親の理想を押し付けられる子供、それを目の当たりにしている。


「誰モ呪ッテナイ。アノ子タチガ優シイ事ハ博士が一番知ッテイルハズ」


「違う。そうじゃない。……私の鉄人は魔法少年よりも……ああ、そうか。疑似的感情データを組み込んだのが失敗だった。──もうやめだ」


「博士?」


「アトムスデータアクセス。感情プログラム破棄。戦闘モードに移行。変更できないようロック」


「ヤメ──」


 すがる子供のようにアトムスは手を伸ばした、しかしマンマリーはその手を払いのける。


「君に本物の感情脳みそを捧ぐぞ。それまでは私の命令を聞く鉄の塊でいてくれ」


「──アトムスは息子同然なんだろ」



「完璧ではないアトムスを私は愛すつもりはない。ただの機械だ」



 その言葉を聞いて、どうしてか心臓が掴まれたように苦しくなった。

 なぜだか自分の母親の顔を思い出す。

 僕を逃がそうとしてゾンビに囲まれている姿。

 震える声で最後まで「生きて」と叫んでいた。


 ──マンマリーの言葉で、親という存在を汚されたような気がした。


「脳みそだけ無事ならそれでいい。──変身アイテムは必ず破壊しろ」


「了解」


 アトムスがつま先に力を入れると一瞬で間合いを詰められる。

 目の前。

 拳を振り上げてくる。


 その拳をチェンソーで防ぐ。


『い、痛ぁぁぁあああー!!』


 チェンソーがべこべこにへこむ。

 そして悲痛の叫び。

 ……もしかしてチェンソーに魂が入ってる?

 よし、今度から躊躇なくチェンソーで攻撃を受けよう。


 チェンソーのエンジンをかけるがへこみのせいで回転が鈍い。

 アトムスに当てるけど、服が少し破れたくらいで無傷。

 というより肌に見えるけど、めちゃくちゃ硬い。


 後ろに一歩分下がったアトムスはすかさず回し蹴り。

 チェンソーの刃に直撃。


『曲がったぁぁぁあああー!?』


「……つよっ」


 蜘蛛の糸で拘束しよう──とするものの発射口を手の平で抑えられる。

 また間合いを詰められた。

 そして飛んでくるあごち。


 クリティカルヒット。

 視界が揺れる。


 ──あー、まずい。

 一方的にやられている。

 てか、勝てないかも。


 負けを覚悟した瞬間、メイド服のエプロン部分を引っ張られる。

 ぐいっと方向転換。


「うおっ!?」


「なに二対一で戦おうとしてるんですか。バカなんですか? いったん引きますよ。先輩かけるん


 レンに引かれ走り出す。

 魔法少年衣装が伸びてしまう。

 

 なんで青の小動物の顔を見て、安堵しているんだ僕は。

 ……マコトが良かった。






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