15.想い人の顔は見誤らない
いつの間にか魔法少年の変身も解けていた。
気のせいか防犯ブザーの赤色が薄くなっているような気がする。
電池切れ?
逃げ道がない事を知っているからか、追手の足音はしない。
レンに引かれて辿り着いた場所はまさに〝資料室〟って感じだ。
書類とモニターがずらっと並ぶ。
「助かったけど、僕が大変って時にレンはどこ行ってたんだ」
「別にどこだって良いじゃないですか」
「う○こだろ」
「ち、違います! 可愛いボクはそんなことしませんので。……
「僕の言った通りだった」
「うぅっ──……今回は認めてあげますよ。一瞬とは言え油断したせいで恋のライバルが勝手に退場してくれるとこでした」
「言い方むかつくな」
少しだけ申し訳なく思っているのか顔に自信がない。
──ただ多少は善意がある奴もいるかもしれない。
「でも良かったじゃないですか。
「僕は
「青担当が主人公な魔法少女物はありますから」
「え、そうなの?」
バチバチっと火花を散らす前に好奇心が勝ってしまった。
レンは呆れたように苦笑いをこちらに向けた。
いや、でも主人公は
マコトが好きなのは魔法少女じゃなくて特撮ヒーローなんだから。
「それにしてもここはなんですか? 古い本みたいな。くさっ」
「マンマリーの実験資料をまとめてる部屋だろうね」
つまりは多くの子供たちの命が奪われた記録だ。
気持ちの良いものじゃないのは間違いない。
レンは本棚から適当にファイルを取り出してぱらぱらと読み始める。
「えーと、『【鉄人プロジェクト】──『博士の息子の死によってプロジェクトは始動。犯罪的思想を持つショタコンの殲滅と子供自身等が身を守れるようにと立案された。』」
アトムスのデータには虫食いがあったけど博士、マンマリーの口から聞かされている。
「『孤児である29人の子供たちが集められ実験がなされた。』」
ん、〝29〟って言ったよな。
「ちょっと待って。人数あってる?」
「はい。算数のテストは100点でしたから」
ぐいっとレンの前に頭を割り込ませる。
僕のポニーテールが鼻にかすったのか「ぷしゅんっ」とくしゃみをしている。
「なんなんですか、急に」
「マンマリーは僕に『子供たち28人は実験の失敗により死亡した。』って言ったんだ」
「そのひとりはアトムスのことじゃないんですか。狂ってましたし勘違いしててもおかしくない。それか記録か記憶違いですよ」
いや、この資料を書いたのはマンマリーだ。
自分が殺めた子供たちの人数を間違えるわけがない。
『実験の失敗により死亡』の28人。
なら残された1人はなんだ。
実験外の死、実験出来るほどの体力がなかったか、──または。
『一番小サクテ。一番弱カッタ。泣キ虫デ皆ニ守ラレテタ』。
「変なのいっぱいですね。この黒い四角いのはなんですか」
レンが棚から取り出した四角いなにかはカタカタと音を鳴らした。
「ビデオテープってやつじゃないかな。父親の書斎に置いてあるのを見たことがあるかも。映画とか家族動画を観れる物だよ」
「DVDみたいなものですか。タイトルを書いてないしどうせえっちなものに違いありません。勝手に観てやりましょう」
「そんなんだったらすぐ捨てろ!」
ええっと、使い方ってDVDとかと同じだよな?
といってもサブスクで映画を観てたからよく知らない。
プレイヤーに差し込んで……あれ、ザーザーなってる。
「再生されませんね」
「確か一回最後まで観たら巻き戻ししないと観られない、とかだったかも」
「え、めんどくさ。原始時代の遺物ですか」
巻き戻しボタンを押して、荒くテープが巻き取られていくような音を聞く。
これ合ってる?
壊れたりしないよね。
巻き戻しが終わった。
再生。
『はーい、皆笑って笑って! 動画に残してるからな。君たちが大きくなった時にはずかしくないようにしろよ』
女性の優しい声。
おそらく撮影者はマンマリーだろう。
それにしても今より声が明るい。
しかも映像に映る子供たちはみんな幸せそうに笑っている。
『ぴーすぴーす! 博士、かっこよく撮ってね』
『はるかがぼくのオモチャ取った!』
『ここのはみんなのもんだろ! おれ悪くないもん』
喧嘩しているふたりにカメラの向こうからげんこつが飛んでくる。
『まことが寝てるから大騒ぎするな』
『そうだよ。さっきずっと泣いててやっと寝てくれたんだから』
『へへ、ずっと泣いててうるせぇのに寝顔は可愛いのなー』
『ほっぺつんつん』
カメラがすやすやと寝息を立てている子供に向けられる。
10歳にも満たない、身体の小さな子。
『おやすみ、まこと』
そして動画は締めくくられた。
画面が固まる。
可愛いその寝顔は大好きな誰かによく似ていた。
「マコト」
「まーちゃん」
僕とレンの声が重なる。
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