11.ピンチに登場! 地獄からの使者

「アトムス、支配モードに移行。もうひとり、レン君を探して連れて来てくれ」


 サソリ歪曲者パバードがそう言うとアトムスの目の色が明るい黄色ではなく濁る。

 返事も頷きもなく、アトムスは僕を置いて消えていく。


 金田カネダ カケル──ピンチ!

 台の上に縛り付けられ、周りにはなんかよくわからない怪しい機械の山。


「お前はアトムスを〝正義の味方〟にしてなにがしたいんだ」


「そんなのは知れたこと。全ての歪曲者パバードを殺すことだ」


「──は?」


 こいつは一体なにを言っているんだ。

 ショタにしか興味のないゾンビの上位種歪曲者パバード歪曲者パバードを殺す?

 同族、同じ性癖の化物のくせに。


「【鉄人プロジェクト】の目的は子供が大人に頼らず自身を守れる世界の為に始めたのだ。子供が安全で笑っていられる社会の為に。──私はね、随分と昔、ゾンビウイルス蔓延前だけど息子を殺されているんだ。アトムスは彼をモデルに作った」


「……足をハムハムするのが好きって聞いたぞ」


 相手はぴくりと動揺し、少し困ったように「ははっ」と笑った。


「親というものは自分の子供の足をハムハムするのが好きな生き物なんだ」


「嘘つくなお前! 歪曲者パバードのくせに」


 こいつの言葉は全て嘘かもしれない。

 歪曲者パバードになるようなヘンタイにそんな大義があるわけないし、人の親であるはずがない。


「この姿では聞く耳も持ってもらえないようだ。分かった。──人間の姿で話をしよう」


 そう言ってサソリ歪曲者パバードは怪人態を解く。

 現れたのは白衣を着た白髪の多いヨーロッパ辺りの女性。

 どことなく僕の母のような、雰囲気があった。


「マンマリー・ペガサス。──私が歪曲者パバードになったのはおそらく母性愛の歪みなのだろう。子供を愛しながらも大義の為ならば平気で犠牲に出来る歪み。息子を失ってから私は壊れてしまったのだ」


「なるほど。だからアトムスなんだ」


「──なにか含むのある言葉だ。はっきり言いたまえ」


歪曲者パバードを倒したいならレンみたいな魔法少年? を集めて軍団を作れば良いじゃないか。別にアトムスに執着しなくたって。──結局、お前に大義なんてない。息子を生き返らせたいだけなんだ」


 マンマリーと名乗った白衣の女性は愉快そうに笑った。

 納得したように、胸に巣くった霧が晴れていくような。


「ああ、きっとそうなのだろう。アトムスを完璧な物とし、私はそれをまた息子と呼ぶ」


「そもそも子供を犠牲にした時点でお前の実験に大義なんてない」


「君の言葉は重いな、カケル君。ショタとは思えん」


 ショタは関係ないだろ。


「本当の正義の味方ってのはもっと純粋でその後のことなんて考えずに困っている人がいれば突っ走って助けちゃうバカのことだ。──肉を探してくるって出掛けといて全然帰ってこないし、変な小動物拾って来て、自分はまたどっかに行っちゃうけど」


 僕は正義がなんなのか知っている。

 だから目の前の人物が悪であると確信を持って言える。


「信頼しているのだな。……しかしだ。君とその正義の味方の関係は私の求める世界にはいらない。大人が子供を守れない時、どうする。現に目を離したら危険な状態に陥っている」


「僕の脳を奪おうとしている張本人がそれ言う!?」


「ふふ、ごもっともだ」


 マンマリーは机に置いてあったコーヒーを一口。

 それから無造作に置かれた医療用メスを手に取る。

 僕はごくりと喉を鳴らした。


「確かに僕等はマコトに守られるだけの存在かもしれない。でも僕は強くなりたい。マコトを守れるくらいに。──お前に殺されるわけにはいかない」


「大丈夫。死ではない。アトムスと一緒になるんだ。あの子たちのように」


 メスの先端が僕のおでこを突く。

 泣きわめいたりはしない、ただ冷静に相手を睨みつける。



『はぁ? なんでマッドババアにSSRランクショタであるカケル君をあげなきゃいけないわけー。そんな物騒なもの挿入いれるんじゃなくってイケナイ物じゃなくっちゃ私は許さないよー』



 聞き覚えのある、背筋の凍る、可愛らしい声。

 入れた覚えはなかったけど、僕のズボンの後ろポケットから何かが飛び出す。

 それはマンマリーの頭に直撃し、よろめく。


 空中に浮く、赤い防犯ブザー。

 中心の丸にはマークが描かれていた。

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