10.毒を以て毒を制す

 ──めちゃくちゃ話した。

 鷹岩たかいわ マコトというヒーローオタクのことを。


 他の人物であればマコトのヒーロー談義を聞いている時の僕みたくなんとも言えない表情をすると思うが、アトムスは相変わらず無表情・無感情のまま。

 ただ動きで相槌は打ってくれる。


「ヨクカッタ。カケルハマコトガ大好キ」


「な、なんでそう……まあ、そうなんだけど。あ、でも勘違いするなよ。僕は家族に向ける好きだ。レンみたく〝結婚する〟の好きじゃない!」


「ウン。──別人デモ嬉シイ」


 ……嬉しい?

 ロボットにそんな感情が芽生えるとは思えないけど、アトムスはまこと君と同名のマコトの活躍を聞いて嬉しくなったのだろうか。

 実験で命を奪われた少年の〝ifもしも〟をマコトに重ね合わせているのかもしれない。


「まこと君はどんな子だったの?」


「一番小サクテ。一番弱カッタ。泣キ虫デ皆ニ守ラレテタ。──デモ心ノ綺麗ナ子」


「……そんなまこと君を、子供たちを死に追いやった。あの歪曲者パバードを憎んでないの?」


 『博士』と呼ぶくらいだ。

 きっと子供たちを使った悪の研究の責任者はアイツだろう。

 アトムスが憎んでいなくて、実験対象の子供たちはアイツに呪いの言葉を浴びせながらこの世を去ったに違いない。


 僕の問いにアトムスは沈黙で返した。


「聞かせてもらった。実に興味深い英雄譚だ」


 長い手足が教室に入って来る。

 サソリ歪曲者パバード


 怪人態では表情の変化はないけど、なんだか上機嫌に見えた。


「ほほう、なるほど。鷹岩たかいわ マコト。──偶然かあの子と同じ名を持つ謎の正義の味方。人間の身でありながら我々歪曲者パバードを討伐した偉業を讃えよう。……とある人物にこう伝えたんだ。『【鉄人てつじん】のみが我々パバードを殺せる』と。しかしそれは嘘になってしまったか」


 【鉄人プロジェクト】。


「その鉄人ってのはなんなんだ」


「カケル君。こう見えても私は良い怪人なんだよ。──毒を以て毒を制す、怪人を倒そうと躍起になっていたら自分も怪人になっていることに気が付かなかった。──私はね、〝〟を作りたかったんだ」


「──……正義の味方」


 そんなことを口走る大人がマコト以外にいたことに驚く。

 ましてや怪人ゾンビ歪曲者パバードの口からそんな言葉が出るなんて誰が思いつこうか。


 サソリ歪曲者パバードはアトムスの頭を撫でる。

 支配ではない、母が子に向ける愛情のような。


「【鉄人アトムス】。私が行う全ての悪はこのアトムスを完璧な物にするためにある」


「実験の子供もそのために為に死んだのか? だから『アトムスに辿り着いた』か。嫌な予感しかしないけど、それは一体どういう意味なんだ」


「そこまで話していたか。子供たち28人は実験の失敗により死亡した。拒否反応で身体が徐々に鉄に侵されていったのだ。最終的には子供の形をしたただの鉄の塊になってしまったよ」


「……お前、なに淡々とそんなむごいこと口走ってるんだ」


「ああ、しかし安心して欲しい。そのは全てアトムスに捧げられた。子供たちの命は言葉通りアトムスが継承したのだ」


 気付いていない。

 自分がどれ程、心がないのか。

 どこかで壊れたか、置いて来たかは知らないが──子供の死をただの工程のように語るこの怪人を許してはいけない。


「ただ足りないものがある。感情──心だ。正義の味方は誰よりも葛藤がなければ。だから君たちにはそれをアトムスに与えてやって欲しい」


「感情を与える? 話し相手にでもなれってか」


「いや、ゾンビが求める物など決まっているだろう。──脳みそをくれ」


「バカげてる! ロボットに人間の脳を移植するなんて不可能だ」


 相手は「それが出来るのだ」と言わんばかりに笑った。

 機械のショタを人間に変える。


「童話じゃないんだ。ピノキオが人間になることはない。一生妖精でも探してろよ怪人」


「妖精か。──私は君たちをそうだと思ったのだ」

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