9.伽藍洞の教室!悪の研究

 ──悪の研究所、はたまた誰もいなくなった学校か。

 奥の方には教室があり、机の高さを見るに小中学校。

 黒板にはチョークの消し跡が残っている。


 教室の後ろには絵が飾られており、生徒たちの名前がひらがなで添えられている。

 苗字も出席番号もなく、ただ識別番号のように。

 はるか、そうた、とおる、こうじ、とし、ひなた、ひろみ、ゆうじろう、みくる、──まこと。


「ここはなんなんだ」


 僕はこちらを観察しているアトムスに問いかける。

 敵であるはずの歪曲者パバードは『信用出来ないのは当然のこと、気が済むまで自由に見て回るといい』と言った。

 〝自由に〟と言ったくせに監視をつけやがったのだ。


 青いのは勝手にどっか行った。


 矢が貫いたはずだけど、いつの間にか回復しているアトムス。

 僕たちが着替えている間に修理したというのが正しいのか。


「見テノ通リ、学校?」


 なぜ疑問形。


「この子達は今どこに──」


「皆、


「……歪曲者アイツの仕業だろ」


 全員、あのサソリ歪曲者パバードに殺されたのだろう。

 僕は奴等の残忍さを身に染みて知っている。

 もうアイツ等は人間なんかじゃない、救いようのない怪物ショタコンだ。


「博士ガ殺シタ? ──正シクモナイケド。間違ッテモイナイカラ否定シナイ」


「なんでアトムスはあんな怪物と──いや、ロボットと会話なんておかしいか。〝そう造られた〟ってだけなんだろうから」


「博士ニ対シテ、勘違イガアル。確カニミーノ足ノ指ヲハムハムスルノガ好キナ変態ヘンタイダケド」


「救いようのないヘンタイじゃないか! ──マコトも僕のお尻を揉むことはあるけど、不可抗力や寝ぼけてる時だけだ。でもサソリ歪曲者パバードには間違いなく下心がある!」


「触ルデナク揉ムノハ、確信犯デハ?」


「違うもん!」


 マコトが歪曲者パバードと同類にされてしまう。

 話を変えなくてはマコトの沽券コケンに関わる。


「えーと、絵にアトムスの名前はないけど、ここの子たちとは関係ないのかな」


「ノー。関係ナイ、違ウ」


「ん?」


 アトムスは壁に飾られている絵に視線を向ける。

 感情はない、ただカメラが映像を記録しているだけだ。

 ──そのはずなのだけど、悲しんでいるような、懐かしんでいるような。


「コノ子タチハ、ミーノ大事ナ友達。家族? 苦シミノ中デ生キ、幸セニハナレナカッタケド。──ミーニ辿リ着イタ」


 〝アトムスに辿り着いた〟。

 その言葉の真意は分からなかったけど、子供たちの苦しみがあるならどんな素晴らしい成果があろうとそれは悪なんだと思う。

 マコトならきっとそう言う。


「なんの研究をしていたのかな?」


 歪曲者パバードになるようなヘンタイが、子供を集めて地下の研究所で実験。

 絶対、ろくなもんじゃない。



「【】──『■■の■■の■によってプロジェクトは始動。■■的思想を持つ■■■■■の殲滅と■■自身等が身を守れるようにと立案された。』」



「……アトムス?」


 機械的朗読。

 まるでインプットされている資料のよう。


「『しかし研究は失敗。■■達は次々と■の塊へと変化してしまった。生存者──ゼロ』」


 実験素材モルモットにされた子供たちは死亡。


 自作の美少年ロボットの足指をハムハムする事なんて比べようのない、極悪だ。

 例えば世界平和の研究だとしても、それは外道の行いじゃないか。


「やっぱりダメだ。アイツは倒さないと」


 僕は拳を強く握る。

 力んだあまり唇を噛んでしまったようで少し痛かった。


「マコトノ話ヲシテ欲シイ」


「え? なに」


 何事もなかったような素振りのアトムス。

 自分でもなにを言ったのか理解していないのかキョトンとしていた。


「カケルガ探シテル、マコトッテ人間ノ話ヲ聞キタイ」


「……良いけど、ここのまこと君とは別人だよ?」


「構ワナイ」


「し、仕方ないなぁ」


 僕は教壇に立ち。

 チョークで『鷹岩 マコトについて』と黒板に書いた。


「それじゃあ、授業を始めようか!」


「オォ」


 着席しぱちぱちと手を叩くアトムス。

 その瞳に映る少年は敵のアジトにいるにも関わらず陽気に笑っていた。

 危機感! ──とは思うけど、話さずにはいられない。



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