8.地下! 謎の施設

 ──服を着る。

 用意されていたのは運動着のようなシャツと短パン。

 僕のは赤色、レンは青色。


「平凡な運動着すら着こなせちゃうボクってやっぱり可愛すぎます」


 ……どうしてこんなことになったのか。


 現在、サソリ歪曲者パバードに連れられて森の小屋に入った。

 外観のイメージにはそぐわない近代的エレベーター。

 そして地下へ──サソリ歪曲者パバードが隣にいるせいでどれくらい下ったかはまったく予想も出来ない。


 目的の階に着くとまず更衣室に入れられたのだ。


「油断するなよ、レン」


「ご安心を。警戒レーダーはしっかり機能しています。……問題はこっちです」


 そう言ってレンは防犯ブザーを取り出す。

 以前は濃い青色だったはずだが薄く色が抜けている。


「変身衣装を溶かされたから壊れちゃったんでしょうか。紐を抜いてもなんにも起こらないし……すねましたかね」


「生き物じゃあるまいし、……そういえばそれ、歪曲者パバードの灰から作られるって言ってたけど、もしかしてマコトが倒したの?」


「いえ、蝙蝠コウモリ歪曲者パバードは──……ややこしいのでそうしておきましょう」


「流石、マコト」


「なんで先輩かけるんが胸を張ってるんですか。まーちゃんがすごいのは当たり前ではありませんか」


 バチっと火花が飛んだ。

 マコトの褒めたり、ダメなところを言ったり、どっちがマコトを知っているかの口喧嘩。

 ヒートアップしてお互いのほっぺをつねり合うまでに発展。


 絶対僕の方がマコトのこと知ってるもん!


『好きな子の話で盛り上がっているところ悪いのだが、着替えが終わったら出てきて欲しい』


 放送でサソリ歪曲者パバードの声。

 よく見ると天井に監視カメラが設置されている。


「見てやがりましたね! この変態ヘンタイ怪人!! ボクのお着替えシーンは先輩かけるんと違って安くないんですよ。訴えます」


「いいから、ここから出るぞ」


「大人しく従っちゃうんですか。はーん、これだから優等生タイプは。流れに任してチャラ男とかにハジメテあげちゃうんですよ」


 なに言ってんのかさっぱりわからない。


「ここは奴の腹の中だ。変に刺激して殺されたらどうする。隙を見てアトムス連れて逃げるよ」


「あの歪曲者パバード、危険でしょうか」


 は? ずれているとは思っていたがここまでとは。

 歪曲者パバードってのは悪のショタコンの成れの果てだ。

 僕等少年を──ショタを色欲玩具にしようとしている外道共。


「欲望を抑制出来る歪曲者パバードはいます。怒りの感情に飲まれている時にボクたちを殺す毒だって生成出来たでしょうにそうしなかった。──なにより、あのロボットはあの歪曲者パバードを庇った」


「違うね。僕等を殺さなかったのは利用価値があるから。もてあぶためか、はたまた他の歪曲者パバードに売り渡すか。あそこで僕等を殺そうとしていたらまだ信用が出来た。──それに、アトムスはただのロボットだ。行動がインプットされているだけかもしれない」


 また火花が散る。

 本当に僕とレンは相性が悪いらしい。


 施設の白い廊下。

 いくつもの自動ドアを抜けて進んでいく。

 しばらくすると開けた場所に出る。


「ようこそ、我等の聖地へ。喜ばしいことだ、アトムスとふたりきりでは広すぎると思っていたくらいでね」


「……ここは?」


「ゾンビウイルス蔓延前に使われていた研究所だ。なに、悪さはしていないさ。世界平和のための研究である」


「地下って時点で他人には言えないものじゃないのかな。それに狂科学者マッドサイエンティストは自分の実験の悪性を理解していないってのがお決まりなんでしょ」


 『黒鉄くろがねオックスマン』シーズン1で勉強した。

 喧嘩を売ったつもりだが小さな笑い声で流されてしまう。


「腹を空かせているだろう。さあ、食べてくれ」


「敵に出された物をすんなり口に入れる程、僕等はバカじゃ──ってレン!?」


「うまま。牛肉ステーキですよぉ。先輩かけるんは食べないんですかー?」


 ステーキを嬉しそうに口に頬張るレン。

 鉄板の上でジュウジュウと音を立てている。

 金色の肉汁。

 よだれが滝のように流れそうになったが堪える。


「お前に出されたステーキを食うぐらいなら。一生カエル肉を食べ続ける方がマシだよ」


「カ、カエル肉」


 その場の全員が引く。

 そんなの食べてるのって顔で。

 レンなんて「きもぉ」と声を漏らす始末。


「正直、お前が良い奴か悪い奴かなんてのはどうでも良いんだ。聞きたいことはたったひとつ。──鷹岩たかいわ マコトの居場所を知っているか?」


「……知らないな。ここには君たち以外は来ていないはずだが」


「──────〝マコト〟」


 1テンポ返答が遅れたような気がする。

 そしてなにより無表情に椅子に座っていたアトムスが僕を見た。

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