7.蠍の怪人! 敵か味方か

「ボクの後ろに下がっててください!」


 サソリ歪曲者パバードを見た瞬間にレンは僕とアトムスの前に立ち、スカートのポケットから何かを取り出す。

 ──それは防犯ブザー。

 デザインはほぼメジャーなものと同じだけど、青色をしていてコウモリのイラストが付いている。


 その様はまるで通学路途中に不審者に出くわした子供かのように──例えようとしたけど、まんまそれだった。


 勢いよく防犯ブザーの紐を抜く。

 まったくの無音だが、サソリ歪曲者パバードはなにかが聞こえているかのように耳を抑えて素早く後退する。


 またしてもレンの早や着替え。

 鉄製でコウモリのような形をした弓を構える。


「ふはは、──。まさか。まさか出会えるとは、私はてっきり夢見るショタコン共が創った架空の存在かと……実に興味深い」


 音が止んだのか余裕そうに笑いだす。

 怪人のデザインは僕を追っていた蜘蛛クモ歪曲者パバードと近くスリムで等身が長い。

 サソリの尻尾の先端のような顔はまるでペストマスクのよう。

 全体から受ける印象は──狂科学者マッドサイエンティスト


「ち、硬いですね」


 レンが矢を数本放つが甲羅のような肌を貫けずはじかれる。


「先ほどの変身アイテム──防犯ブザーは我々歪曲者パバードの灰から作られるとか。すなわち君は少なくとも一体倒しているということだ。食材が捕食者に勝利した。ふふ、それはもはや英雄譚。聞かせて欲しい」


「ぶつぶつとうるさいですね」


 レンは手鏡を取り出し。

 自分の膝に叩き付けて割る。

 それから鏡の破片を周囲にばらまいた。


先輩かけるんはそのショタロボットを守っていてください。ボクはちゃっちゃとこのショタコン怪人を針山にしてやりますよ」


「……お前は一体」


 姿が消える。

 サソリ歪曲者パバードは一瞬驚いたが、再び嬉しそうに笑い出した。


「そうか。歪曲者パバードの能力も引き継ぐか。──ふむ。鏡に映っている限り視認できなくさせる──だろうか。ただの手品。恐れることはない。……いや? 私の弱点は弓ではないか」


「バカなんですか? 自分の弱点を口走るなんて」


「レン。今のはただの冗談ジョークだ」


「イエス。博士ノ今ノ言葉ハオソラク星座、蠍座ノ心臓ニ狙イヲ定メテイル射手座ノコトヲ言ッテル」


 なにもない空間から「わかってますが!?」という強がりが聞こえた。


「アトムスよ、理解してくれたのは嬉しいが、そう説明されてしまうと私のセリフがとても臭く感じてしまうだろう」


「イエス。博士ハトテモ臭イ」


 ……まずいな。

 レンのキラキラ変身には驚かされたけど、相手にされていない。

 むしろ僕の背中で隠しているアトムスというショタ型ロボットと会話するほどの余裕まであるんだ。

 相手が本気なら僕等の命はもうない。


 いたずらに生かされているのか、それとも敵意が元々ないのか。


「あのショタロボットから『博士』と呼ばれていますが、造ったのは貴方ですか?」


「ああ、その認識で間違いはない」


「なんのために、なにをさせるために」


「全てを。私が求めることであれば」


 歪曲者パバード

 日本を終わらせたゾンビウイルスに侵された悪性のショタコンだけが至る怪人。

 そんな化物の言葉だ。


 僕から見ても綺麗だと思うショタの姿をしたロボット。

 ──つまり、なのだろう。


「安心しました。救いようのない変態さんクズで」


 ぴしゃり。

 同じ個所を何度も狙ったのか、サソリ歪曲者パバードの胸の甲羅にヒビが入る。

 その箇所に三連打の矢が──。


 貫いた。


「え。なんで……」


 僕の表情が凍る。

 きっと透明化しているレンも同じ表情をしているはずだ。


 ショタ型ロボット『アトムス』と呼ばれたそれがサソリ歪曲者パバードの前に出て代わりに矢を胸に受けたのだ。


 僕は間違いなくアトムスの手を掴んで守っていたつもりだ。

 だけど残されたのは外された機械仕掛けの腕。

 あれは意思を持ったかのようにあの場に向かったのか。


 オイルのようなものが零れる。


「あ、アトムス!?」


 サソリ歪曲者パバードが駆け寄り、抱く。

 震える声で鋼のショタの名前を呼ぶ。


「ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ」


 嘆く。

 悲しむ。

 怒りで身を焦がす。


 実験瓶のような形をした肩から液体が流れ出した。

 紫色で沸騰している液体が場を満たしていく、勢いは強くすぐさま僕たちさえも飲みこんだ。

 まるで濁流に飲み込まれたような激しさ。


「博士、落チ着イテ。大事ナイデス」


「……そうか。良かった」


 場が収まると波が引いた。

 というよりも肩の実験瓶に戻っていく。


 そして僕等は……。


「なんかすっぽんぽんにされたんですけど!!」


 はだかでべしょべしょである。

 ねばねばしてて、体の中にも入ったと思う。

 きもちわるい。


 レンも服を剥ぎ取られたせいか、はだかのまま地面に伏していた。

 幸いなことに大事な場所は落ち葉が隠している。


「ああ、すまない。つい我を忘れてしまった。私の能力のせいだ。様々な効果の毒を生成することが出来るんだが。……今のは、服だけ溶かす毒だな」


「あんなシリアス場面で服だけ溶かす毒!?」


 なんだこいつ──!?

 まったく意図が読めない。


「ふたりともツイてるんだな」


「そこ重要じゃないから!!」

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