幕間 鷹を追いかけて恩師のもとへ
全速力で走る。
いつも以上に両足が軽い様な気がした。
頭上を飛行する
──あの
別に巨大化しない、むしろ他の個体よりかなり小さい。
ん? よく言っていることがわからない。ああ、別に良いんだ。こっちの話。
ラルゲユは俺が幼い時に怪我しているところを見付けて世話した
そんな思い出深いラルゲユだが、俺にとっては〝不吉な前兆〟なんだ。
だからこうして、血相変えて走り続けている。
護衛対象であるはずのレンを病み娘に託してまで。
俺は両親の顔を知らない。
記憶にあるのは白衣を着た男たちだが、おそらく彼らは俺の両親ではないはずだ。
生活の全てだった真っ白い部屋で、師匠に出会った。
俺に親がいるとするならそこから連れ出して、面倒を見てくれた師匠だけだろう。
「ラルゲユ。師匠に一体何があった。無事なのか!?」
ゾンビウイルス蔓延後、騒ぎが落ち着いた時に師匠と過ごした田舎の山に戻ったが姿はなかった。
しかも家は完全に崩壊していた。
巨大な台風でも来たかのような荒れ具合で。
それでもあまり心配はしていなかった。
……師匠なら、まあ大丈夫だろう、と。
しかし以前に師匠は俺にこう言った。
──『ラルゲユはわしのもとに置いていけ。わしが死にかけたら会いに行かせる。冷たくなってたら手厚く土にでも埋めてくれ』
冗談を言えるような人物じゃない。
それに強がって、他人に助けを求めるような人物でもない。
ラルゲユが俺のところにやってきたという事は、状態はかなりまずい。
地面を力いっぱい踏みしめると後方から爆音がする。
これが火事場の馬鹿力というのか、徐々に走る速度が増していく。
気付かずラルゲユを追い抜かしてしまったようで『ギョェェェエエエ!?』なんて変な鳴き声が上がった。
「あ、ごめん! お先にどうぞ」
プライドが傷付いたらしく、不機嫌そうに眉間を寄せてさっきよりも早い速度で飛んでいく。
追い抜き追い抜かされ、
しばらくそれが続き、ラルゲユは巨大な木に留まる。
「ここら辺だな。ありがとう」
周りを見渡す。
森は深く、生い茂った木のせいで光が届かない。
真っ暗だけど、それなりに目は慣れてきている。
大木の下で倒れこんでいる白髪のショ……──師匠だ。
「師匠ッ! お久しぶり。なにがあったんですか? 早く起きて」
白い短髪の見た目は美少年。
綺麗な模様をした緑色の和服を着ている。
どうしてこんな森の中で睡眠を、風邪を引いてしまったらどうするんだ。
起こそうと身体に触れる。
濡れていた。
──変な意味ではなく、緊急事態的な、赤く黒い、体液。
止血は最低限出来ているが、呼吸が薄い。
「……なんだよ、これ」
心音が早くなる。
めまいまでしてきた。
親のように可愛がってくれた恩師が死にかけている。
らしくもなく、手が震えた。
『落ち着くんだ青年よ! 最善を尽くせなくてはショウちゃんは死んでしまう。君だけが頼りなのだよ』
「うお!?」
突然と人影もなく声がする。
経験豊富そうな渋く、深い声。
『おおっと、警戒する必要はない。私はただの変身アイ……いや、事情を知らない者には伝わりづらいなぁ。簡単に言うと〝オトナのおもちゃ〟である!! 敵じゃないから安心したまえ』
「いかがわしい奴ってことだけは分かった」
声は師匠の服の中からしてくる。
よく思い返せば、よく服の中にものを入れてたな。
果物とか、釣り上げた魚とか。
『ほう。そんな容赦なくショウちゃんのカラダまさぐっちゃうかね!? ──いま、触ったね! ショウちゃんの可愛く膨らんだぴんくな突起をこねくったね!?』
「──んんっ」
『ほらもう、えっちな声出ちゃったよ。NTR的展開にオジサン精神崩壊寸前。……でも、嫌いじゃない。今度は両方の突起とも一緒に攻めてみるのはいかが? ささっ』
「ちょっと黙ってくれ」
服の中に入っていた物を取り出す。
……〝防犯ブザー〟。
色は緑、中心の丸い部品には鳥が描かれている。
これはまさか、レンが持っているアレと同じ……。
『ショウちゃんの愛弟子、マコト君だったかな。どうかわけは聞かず、我が麗しの友人を助けて欲しい』
「言われなくても」
『安心してくれたまえ。知っての通りショウちゃんはR18展開可能なショタだ。助けた見返りはそれはもうえちえちな──痛い痛い痛い!? 木にゴリゴリするのやめてやめてッ!』
こんな得体の知れない声に頼まれなくても、全力で師匠を生かしてみせる。
返しきれない恩があるのだから。
ショタ以外ゾンビ化する世界でなぜか俺だけ無事な件 あやの屋 @ayanoya221b
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