4.ショタズ・ハードモード・リビングデッド
なんとかバイクの起動に成功した。
体感1時間、とりあえず時間と精神が削られた。
【声が小さい】だの【えっちさが足りない】だの、好き放題言われたがやけになったら成功した。
エンジン音はするが、ゾンビ世界での配慮なのか夜中の冷蔵庫程度の音しかしない。
これを遠くから察知できるゾンビはいないだろう、聞き取れるのはマコトみたいな人間離れした超人くらいな気がする。
静かに温泉宿から出ていく。
アナンが自由に動けるようになって宿を囲む壁も強化され、要塞のように変わった。
外の敵は侵入不可能だけど、中から外に行くのはそんなに大変じゃない。
普通に正門から出ていける。
自動ドアみたく〝うぃん〟と。
マコトはそもそも外の世界でも無敵だし、僕も何の用意もなく出ていくような馬鹿じゃないと思われているから。
その信頼を裏切ろうとしているわけだ。
少しだけ、正門前でバイクを止める。
「早く行きましょうよ。新米メイドさん」
「うっさいなぁ。耳塞いでろって言っておいたはずだけど」
「あんなに必死で恥ずかしいセリフ連発されたら無理ですよ。イヤでも聞こえます」
「それは悪かったね」
後部座席にいる空気の読めない
この場合、死に導く小悪魔の囁きの方が正しいかもしれない。
こいつがいなければ、こんな命知らずな行動はしていなかった……──。
「いや、他人を自分の行動理由にするのは良くない。これは僕の決断だ。マコトの力になりたいし、守られるばっかりはイヤだ」
「なんですかひとりでぶつくさ。でも同感ですよ。ボクだって大切な人を待つだけの一昔前のヒロイン像は好きじゃありませんから。ヒロインは超絶に可愛くて、強くなくっちゃ!」
なんだヒロインって。
レンとは少し論点がずれているような気がする。
そもそもアレ♂が付いてるのにヒロインとは。
「多分、僕史上最も無謀な選択だ。気合い入れて行くよ、レン」
「〝
この扉を抜ければ、ゾンビが支配する壊滅した日本。
しかもいつも守ってくれるマコトは傍にいない。
それでも行くのか? 決して褒められることじゃない。
──うん、それでも行かなくちゃ。
だって僕は〝オトコノコ〟なんだから。
弱いままじゃ駄目なんだ。
強い人の隣にいたいなら、強くなくっちゃ。
バイクを進める。
扉を抜けると、空気が一変する。
安全地帯から気を抜けば命はない恐怖。
「もしかして
「ついさっきまで外にいたお前と違って、久しぶりなだけだから! すぐに感覚を思い出すさ」
といっても廃コンビニで隠れてたんだけど。
自動運転機能が付いているといってもゾンビウイルス蔓延前のデータらしく植物の成長が異常的な事まではインプットされておらず。
コンクリートを突き破る木の根っこにぶつかり、バイクが飛ぶ。
ふたりとも舌を噛みそうになって、目を丸めた。
「……忘れかけてたけど、そういや世界は終わってたんだったね」
「廃墟ばかり。生存者はほとんどいない。──でも緑は増えたし、動物もたくさんいる。町中にライオンですよ。なんか異世界みたいで面白いと思いません?」
「思わないね。無数のゾンビ。人間の死が当たり前になった絶望の国だ」
「えー、暗すぎ。ボクだってこうなってむかつきますけど、明るく生きましょうよ。だって元気な子が一番可愛いんですから!」
楽観的すぎる。
説教したくなったが、やめておいた。
この世界で大事な物を失っていない奴なんてひとりもいないと思うから。
「確かに暗いより、楽しく生きたいな。マコトもそう言ってたし」
「くふっ、やっぱりまーちゃんとは運命」
急ブレーキ。
レンがへにゃへにゃ笑い出してむかついたとかではない。
目の前、道を塞ぐように
「違う道を探さないと」
「なにびびってるんですか
「は?」
レンは後ろから僕の腕を引き、アクセルを回す。
急発進、急加速、ゾンビたちに向かっていく。
「これは流石に自殺行為だって──────!!」
数匹を
気が付けば後ろで
僕の無謀行為は最悪の滑り出しである。
その原因を作った小悪魔は他人事のようにけらけらと笑っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます