2.入浴!ライバルショタくらべ

 温泉に浸かる。

 マコトの膝に乗っている時とは違って、下唇まで沈んでしまうからひとりで入る時は正座。


「あひゅぅ」


 情けない吐息が漏れた。

 正直数秒で熱くなって出たくなるけど、お湯に入っていると考え事がゆっくり出来る。


 しかもここは男湯。

 僕とマコトだけの専用スペースである。

 変態ヘンタイアナンはもちろん、あの憎たらしい青い小動物も入っては来れないのだ。


「外観がちょっとぼろかったので心配しましたが、浴場はかなり広いですね。うん、気に入りました。やっぱり邪魔者を追い出してここを新居に」


「んにゃ!? なんでお前がここにいるんだ!!」


 ガラッと浴場の扉を開けて入ってくる青い小動物ことレン。

 短いツインテは下ろさず、温泉用ゴムをつけている。

 腰に青いタオルを巻き、上は素肌。

 ぺったんこだ。


「なんでって。てか先輩かけるん、ボクも入るんだからタオルぐらい巻いてくださいよ」


「男しか入ってこないから良いんだよ! 問題はお前だ。なんで女子(?)が男湯に入って……ふくらんでる。え? オトコノコ」


 腰に巻いたタオルの中央部、確かにふくらみがある。

 ……女子にもあれってツイてるの?


「だってお前、スカートを」


「可愛いから着てます。なにか問題が?」


「問題は、ないと思うけど。……でもマコトの婚約者って」


「はい、結婚します」


 わけが分からない。

 目がぐるぐるしてきた。

 これはお湯が熱いからじゃないと思う。


「可愛いものは正義ですし。可愛ければ性別関係なく結婚出来ます。そしてボクは世界一可愛いので最強です」


「とんだバカ理論!! 色々と吹っ飛ばし過ぎだって」


「人は恋の前では盲目になるものです。では先輩かけるんはまーちゃん狙いじゃないと」


「なんだ狙いって、当たり前だ」


「他人を褒めるなんてイヤなんですけど、長い髪、褐色、左目下のホクロ。可愛いポイントなかなか。ボクの次くらいには。チャンスはあるのに興味はないと?」


 こいつはさっきからなにを言っているんだ。

 真意を探るように僕を観察している。

 相手にするだけ無駄だ、会話を止めにする意味も込めて力尽く頷く。


「じゃあまーちゃんはボクがもらいます」


「ダメだ! マコトは僕のだ」


 勢いよく湯から立ち上がる。

 レンは視線を下ろし、僕のを見て「ふっ」と挑発気味に微笑む。


 ならばお前のも見せてみろと怒鳴ろうとするよりも早く、タオルをたくし上げるようにぺろっと広げた。


「ぐぬっ」


 湯に浸かった時の吐息のように無意識に敗北の声を出してしまった。

 と言っても僕より〝少し〟大きいサイズという程度だ、マコトとは比べてはいけない。


 ちびのくせに。


「ふふん」


 レンは勝ち誇ったまま身体を洗い始める。

 まずは足から洗い始めるタイプのようだ、僕は髪が長いから頭から下に洗っていく。


 足の指の隙間までじっくり、久々にボディソープを使ったのか目をキラキラさせて「これです、これ」とつぶやいた。

 不思議とレンのツインテがぴょんぴょんと跳ねている気がする。


「横、失礼します」


「こんなに広いんだから遠く行ってよ。それにタオルを湯に入れるのはルール違反」


「タオルをしてた方が可愛いので」


「へぇ、自覚はあるんだ」


 だと。


 さぞかし僕の言葉に腹が立ったのか「負け惜しみですか?」という言葉と共に満面の笑みを向けられた。


 マコトも随分とめんどうな奴を拾って来たな。

 相性は最悪だ。


「それで、先輩かけるんはどうするんですか?」


 また結婚どうこうのおかしな話かと思ったけど、レンの真剣な顔を見てどのことかは察しがついた。


 マコトがどこかへ走り去ってしまった。

 しかも庇護対象であるはずのレンをアナンに託してまで。

 状況は分からないが、マコトにとって緊急事態だったのだろう。


 その進行方向に古びた小屋と歪曲者パバードらしき存在。

 なにか関係があると勘ぐってしまうのは当然だ。


「どうするって、僕たちにはなにも出来ないだろ。相手はショタ僕たちを標的にするゾンビ怪人なんだから」


先輩かけるんですがね。安全地帯で無事を願うだけですか」


「うん、アナンに言われた通り。ご飯食べて、寝るだけ」


 そんな風にうそぶいてみせた。

 ──……あの小屋の位置は覚えている。

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