第3章 ふたりのショタと悪の科学者
プロローグ
僕の名前は
ゾンビ世界を生きている、特徴はこれといってないただの少年だ。
理由は最近肉料理が食べれていないということでも、愛用武器のチェンソーが押し入れで腐っているからでもない。
ここ数日、この温泉宿にマコトが帰ってきていないのだ。
マコトというのは日曜朝の男児向けヒーロー番組『
だと言うのに護衛対象である僕をほったらかしにして食用肉の狩りに出かけてしまった。
……それにしても遅すぎる。
あまりにも遅すぎるから、隣の部屋の住人である変態アナンが持っていた『
「やっぱり、子供向けというかご都合主義というか。ツッコミどころが多い気がする。……露骨に変身アイテムの商品化を狙ってるし」
熱狂的ヒーローオタクのマコトには悪いが、僕はこういった作品にはまることはないだろう。
同じ熱で語れない事に少しがっかりする気持ちもあるけど、仕方ない。
「そもそも主演俳優のこいつより、マコトの方がカッコいいぞ。なんで顔出ししないんだよ」
変身前パートが退屈過ぎる。
新人ばかりを使っているのか演技は大根ばかりだし、なんというかやっつけ仕事感がある。
こいつら全員子供好きじゃないだろ。
正直、見どころは主人公が変身してスーツアクターのマコトと交代してからだ。
動きひとつでも誰が中にいるのか分かる。
知り合いが出ているからかそのシーンだけは立ち上がって応援するくらい熱くなってしまった。
でもひとりだけかなり演技が上手い子役がいるな。
いつもはツンとした雰囲気で少し怖い少年だけど、オックスマン(マコト)に抱かれている時はまるで恋する乙女かのような表情を見せる。
「というかベタベタと触り過ぎっ!! もっと離れろ。なんで毎回毎回ヒロイン枠に新しいショタが出てくるんだよ! ……アナンがショタコンヒーローって言ってたのも納得だな」
なぜかヤキモキする。
ほったらかしにされている現状で、演技ではあるけど他のショタを助けているマコトを見るのは実に不快だ。
腹が立つ、僕はご立腹である。
今度から僕も狩りに同行してやる。
ゾンビが襲ってきても知るもんか、チェンソーで真っ二つさ。
シーズン1の最終回を見終わったと同時に温泉宿の外でバイクのエンジン音が聞こえた。
ダッシュで部屋を出て、玄関に向かう。
──帰って来た。
あれはマコトの帰りが遅いからとアナンが倉庫で眠っていたバイクを改造したものだ。
赤く巨大で
『ふふ、そういうもんなんすよ』と意味深に笑っていた。
横引きの扉を押し開け、はだしで外に出る。
「おかえり、マコ──誰だお前ッ!?」
バイクにまたがっているのはマコトではなく、少女(?)だった。
生意気そうな顔に、八重歯。
青色の短めなツインテールの髪。
青いセーラー服。
青色のロングストッキンググローブに太ももストッキング。
ところどころにハート形や星形のアクセサリーが付いている。
目が痛くなってきそうな青色の小動物がそこにいた。
背はボクの方が高い。
「はじめまして、先輩。いえ、愛称として〝かけるん〟と呼んだ方が可愛いでしょうか? めんどくさいので、
「は?」
現状を理解するのに然程時間はいらなかった。
そもそもあのフィジカルお化けのマコトが狩りだけで数日も帰ってこないなんておかしかったんだ。
またしても考えなしに人を救って、無自覚にも攻略してしまったのだろう。
……本当にあの男は、たらしめ。
「お前が頭ぱっぱらぱーというのは理解した。それで? マコトはどこだ」
一発殴らないと気が済まない。
捨て猫を育てる余裕はここにはない、早く元居た場所に帰してきなさい。
永遠にここは僕とマコトと変態の三人暮らしでやっていく。
「……それが。鳥を見付けたら血相変えて走り出しちゃいまして」
「意味がわからない」
「ボクだってわかりませんよ。『過去なんてどうでもいい。全部捨てて、レンとふたりで幸せに生きて行く』って言ってくれたばかりなのに」
「マコトはそんなこと言わない」
バチバチッと火花が飛んだ。
絶対に追い出してやる! ──心の声が重なったような気がする。
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