エピロ-グ

 まさに〝魔王城〟というのが適切だった。

 景色に溶け込んでいないから異世界的で、禍々まがまがしい真っ白な城。

 門には白い石像の雄牛が置かれていた。


 その城に忍び込んだひとりの少年ショタ

 白い短髪。

 緑の和服を着ている。


「やはり、ここは悪の巣窟。あの白い雄牛の歪曲者パバードは自分たちの欲望を叶える為にこの場を作ったようじゃな」


『ショタの売り買い、歳を取ってしまったら子供を作る為に利用する。永遠にショタに困らない歪曲者パバードだけの楽園というわけですな。いやはや、あの雄牛は神にでもなったおつもりか。羨まし──いや、けしからんですな。けしからんですぞッ!』


 和服ショタが首にぶら下げている緑色の防犯ブザーから声がする。

 その声はとても渋く、威厳のあるものだ。

 言っていることは残念そのものだが。


「これを悪と呼ばず、なんと言うのじゃ。無垢なる者をまるで物かのように扱い、消費し続けておる。わしは奴が許せぬ」


『これ、ショウちゃん。いくらだからって見た目が超絶プリティなショタである君が『わし』が一人称はいただけませぬ、といつも口をすっぱく』


十蔵ジュウゾウ。ぬしの性癖には答えられん」


 ショウと呼ばれた少年ショタは成人済みである。

 しかも軽く還暦越えとはこれ如何に。


「幼馴染で親友が〝合法のじゃショタ〟だっただけで私の人生は報われておりますゆえ。そこらのエロゲーでは得られない背徳感があると言いますか~』


「相変わらず、なにを言っておるのか分からん」


 この防犯ブザーの変態性は今に始まった事ではないし、『信頼を勝ち得たショタ』にしか欲情しないため基本的には無害である。

 その為、ショウは魔王城に意識を集中出来る。


 手枷足枷てかせあしかせをさせられたショタたちが歪曲者パバードと呼ばれる怪人たちにオークションのようにり落とされている。

 買うために必要なものはお金ではない、そもそもゾンビウイルス以降お金に価値なんてない。


 歪曲者パバードは外界でショタをさらい、この場所で自分好みのショタと交換するのだ。


 それを取り仕切っているのが、オークション会場の中心で趣味の悪い王座に腰掛けた白い雄牛の歪曲者パバードである。


「この場で成敗してやらねば」


『なにをおっしゃる! あの歪曲者パバードの群れが見えんのですか。紀州征伐きしゅうせいばつ雑賀衆さいかしゅうのようには行きますまい。のですぞ。──確実に死ぬ』


「正義の為に死ぬならば、それはほまれじゃ。年寄りならば童子に未来を託すのが道理であろうが」


『それは正義ではない、救えない善意は愚者の行いですぞ。君のようなえっち展開可能の合法のじゃショタを失うのは、世界の損失と知りなさい。天然記念物そのものなのですから』


 相変わらず防犯ブザーの言葉を理解するのは難しいが、今回ばかりは正しかった。

 あの群れに飛び込めば、間違いなく命はない。

 腕っぷしには自信があるが、それは対人間だ。


 ここは、引くしかないのか。

 ショウはオークション会場を眺める。

 自分が救う事の出来なかったショタたちの顔を忘れない為に。


「そこでなにをしている?」


「──っ!?」


 見つかった。

 完全に息を殺し、存在を悟られないようにしていたのに。

 振り返る。


 黒いショタ。

 全身黒コーデ、黒髪、紫色の瞳がこちらを睨む。


おりから脱走出来た奴か。それにしては汚れがないな。──運が良いぞ、お前。見付けたのがオレじゃなかったら大変な事になってた。なにも見てないからさっさと逃げろ」


「逃げるべきはぬしじゃ。ほれ、手を取れ」


 ショウが黒いショタに近づく。

 このショタもオークションに出される、連れ出さなければ。


 〝スンスン〟。

 数歩近づくと黒いショタの鼻がピクピクと動いた。

 それから相手は眉間にしわを寄せ。

 ポッケから黒い──防犯ブザーを取り出し紐を抜いた。


(──こやつ、魔法少年か!?)


 服装がなんともいかがわしいものに変わり、突然と現れた漆黒しっこくの槍をショウの喉元に向ける。


「なんでお前から、スーツアクターさんの匂いがする? しかもかなり濃い」


「な、なにを言っておるんじゃ」


 こんな世界になってから話の通じない者が多すぎる。

 相手の激昂具合を見て会話の余地はないと悟ったショウはすぐさま走り出した。


「逃がすかよ」


 走ったはずだ。

 槍が届かないほどの距離まで、しかし黒いショタが槍を振るうと時計のエフェクトのような斬撃が現れ──気が付いたら、


「スーツアクターさんには俺だけいれば良い」


 ──やられる!


『そうはいきませんぞ!!』


「頼むのじゃ、十蔵じゅうぞう!」


 ショウも緑色の防犯ブザーの紐を引く。





 木の葉が巻い、風が吹いた。




 まぶたを強く閉じ、呼吸を整える。

 心音が落ち着くとそっとまぶたを開く。


 場所はどこかの森の中。

 見渡しても周りにあの魔王城はない。


『逃げれましたな。一時はどうなることかと──ショウ君!?』


「無念。一撃食らってしまったのじゃ」


 ショウの脇腹から血が流れる。

 和服ににじんでいく。

 呼吸が荒れ、立つ力も失って木にもたれかかった。


『ああ!、こんな時どうしたら。肉体があれば介抱出来たものの! ワンチャン弱ったショウ君を好き勝手出来たものの!!』


 ショウは震える手で親指と人差し指を口に咥え。

 ぴゅーっと口笛を吹いた。

 どこからともなくタカが飛んでくる。


 右腕にとまった。


「ラルゲユ。わし愛弟子まなでしを呼んで来てくれんか?」


『いやいや、その前に冷たくなっちゃうでしょうに!』


「大丈夫じゃ。奴なら風にでも乗って来てくれるじゃろう。頼んだぞ」


 タカが頷いたような気がする。

 ショウは小さく微笑み、腕を振った。

 小さくなっていくタカの影を今にも意識が飛びそうになりながらも見送ったのである。

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