20.迷子!お迎えの赤いバイク
「ヤバい迷子だ!!」
「いっそ、この山奥にふたりの新居作っちゃいましょうか」
仮面が外れたことでようやく食事が取れるようになった俺は、干し肉を口に入れながら歩く。
レンは顔と顔を密着させてゼロ距離のまま俺の身体にぶら下がっている。
来た道を探ろうにも、巨大なイノシシに吹き飛ばされたり、ゾンビから逃げたり一貫性のない動きをしていたせいで叶わない。
「君を空に向かって投げるから煙突のある温泉宿が近くにないか確認してくれないか」
「イヤです」
威圧感のある笑顔で断られてしまった。
良い案だと思ったんだけど、ここまで拒絶されてしまったのならしょうがない。
「帰るまでに数日はかかるかもしれないな」
「別にその温泉宿にわざわざ帰らなくても良いじゃないですか。ボクとまーちゃんがいればどこでも愛の巣なんですから」
「そうはいかないんだ。カケルも待っているし、──はふ」
そう言うとレンは俺のほっぺを掴み。
覗き込む。
「誰ですか、そいつ」
声は低く、棘がある。
周りの温度が数度下がった気がした。
「ん。君と同じくらいの歳の少年だ」
「どんな関係なんです?」
「難しい質問だな。……守ると誓った大切な子、とか」
もちろんレンもそうだが。
「は、早くも婚約関係危機の予感!? まーちゃんの浮気が発覚! ボクは発狂寸前です。『君だけを一生守っていく。子供は少なくとも10人は欲しいね』って言ってくれたのに」
言ってないよな、そんな事。
「……浮気って」
「そのショタとはどこまで。ドーテーというのは嘘ですか。怒らないから正直に言ってください」
もうすでに怒っているような気がする。
「なにを勘違いしているか知らないが、カケルとも君ともそんな関係を築くつもりはない。いかがわしい事はひとつも──……」
お尻を揉みしだいたことはいかがわしい事に含まれるのだろうか。
だって柔らかいんだもの。
「なんですか、その思い当たる節があるかのような顔は! もしそのショタといかがわしい事してるならボクにも同じことをしてくださいよ! 正妻として許せません」
色々と複雑になっているような気がする。
温泉宿に着くまでカケルの事は黙っていた方が良かったのだろうか。
「とてもいい子なんだ、きっと仲良くなれる」
落ち着いてもらうために、微笑みかける。
「ひぃん!?
スカートのポケットから防犯ブザーを取り出した。
通常、不審者から子供を守る為の物だが、これは魔法少年の変身アイテム。
言うことを聞かなければ力尽くでいいなりにする。
俺が首を振ると、防犯ブザーの紐を──。
エンジン音が聞こえた。
それは次第に大きくなり、その音を発している物の姿がお披露目される。
俺たちの頭上を飛び越える鉄の塊。
スライドブレーキでそれは止まった。
無人の赤いバイクである。
しかもいかがわしい表情をしたショタのアニメ絵のステッカーが大きく貼られた。
このキャラクターを誰かさんの部屋のポスターで見たことがある気がする。
確か『俺はショタコンじゃない!』だったか。
このバイクの制作者が誰か、すぐに分かってしまった。
「……病み娘」
『やっと見付けたっすよ、マコトさん。もう、通信がいきなり切れたから心配したじゃ──マコトさんの首に青髪ツインテロリが巻き付いてます。いや、これは幻覚。彼はショタコンだ、彼はショタコンだ』
「違うが?」
声がするから近づくと、ハンドル部分の上にモニター画面が付いており、病み娘の姿が映し出されていた。
「まーちゃん、この女の人は?」
「ただのヘンタイだ」
『ども、ヘンタイっす』
「でも助かった。迷子でお手上げ状態だったんだ。これで帰れるのか? レン、後部座席に乗ってくれ」
『なんで名前を呼んでるんすか! マコトさんにとって名前を呼ぶって行為はそんな軽々しい事だったなんて。幻滅っす。このヘンタイ●●××お兄さんめ』
なにを言ってるか分からないが下ネタってことは分かった。
「早めに言っておくがレンは男だぞ」
『……オトコ』
口をポカンと開けている。
流石の病み娘でも理解が追い付かない、
『つまり男の娘予備軍のショタっすか。男の娘は受けか攻めで推せるかどうかきまってくるっす。──いやしかし、その勝ち誇った自信のある顔を見るにこいつは攻めだ。そいつぁ許せねぇすよ。愛も変わらず私は
駄目だこいつ……早くなんとかしないと。
『カケル君!
「帰ろうか、レン」
「いや、行きたくない度が上がる一方なんですけど」
──────第2章 スーツアクターと可愛いは正義
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