19.マジ恋!仮面の下の素顔

「ありました。防犯ブザー」


「やっぱり歪曲者パバードを倒すと手に入る物なのか? ……いやでも、蜘蛛くもの時はなにもなかったような」


「くも?」


 ヘビ歪曲者パバードが消滅した時に出た砂を探るとレンが魔法少年になる為の変身アイテムと同じものを発見する。

 色はやはり青で、中心には蛇のマークが付いていた。


「それも変身出来るのかな」


「くっ。……この紐、かったぁ。抜けそうにないですね」


「まるで制限のかかった禁忌アイテムみたいだな」


 防犯ブザーを鳴らす為の紐が抜けない。

 力ずくでグググッと引っ張るが駄目だ、レンの顔も徐々に赤くなっていく。

 このままでは酸欠にでもなりそうだから止めた。


「それにしても、本当に、終わったんですね」


「そうだな。蛇に勝てたのも、蝙蝠コウモリ歪曲者パバードのおかげだ。お墓を作ってあげないと化けて出そうだな」


「全部ボクのおかげ、とは思いますが。そうですね。お墓くらいなら」


「といっても、もうどの砂がそれだったか分からないな。……ふたりとも混ぜちゃっても良いかな」


「そんなことしたら呪い殺されそうですけど」


「こういうのは気持ちの問題なんだ。もし幽霊として出てきたとしても心から謝れば、許してくれるはず」


 流石にお墓はふたつ、距離は出来るだけ遠くに離した。

 俺が造ったヘビの墓はその辺で拾った花を一輪置き、とてもシンプルな物になった。

 コウモリの墓はレンが手掛けたのだが華やら鏡やらでとても派手な見た目に。


「可愛く出来たじゃないか。きっと喜んでる」


「化物でもお墓くらいは可愛くなくっちゃいけませんから。──……これくらい派手にしておけば、見つけやすくていつでも来れますし」


「そうだな。また会いに来よう」


 レンの背中がとても寂しげに見えたものだから、後ろから抱きかかえる。


「ひゃ、なんですか急に!?」


「帰ろう。レンの新しい家に」


「一緒にはいきませんっ! ずっと言ってるじゃないですか。復讐を終えたら、別々に生きて行くって。心配はありませんよ。ボクにはこの変身アイテムがあるんでゾンビなんて敵じゃありません」


「君も強情だな。まだ俺の事を信用出来てないのか? 一緒に怪人を倒した仲なのに」


「そんな尻軽に見えますか? いくら性格が良くても仮面でざんねんな顔を隠してる人なんて──」


 なにかが割れる音がした。

 亀裂から入る外の光が俺の目を刺す、そしてすぐに視界が開けた。

 ぴきぴきぱかんっ。


 『黒鉄くろがねオックスマン』の仮面が真っ二つに割れて地面に落ちる。


「壊れたか。そりゃそうだよなぁ。頭突きとかしちゃったわけだし」



「ふ、ふにゃぁぁぁあああ!? イケメンだぁぁぁあああ!!」



 レンが急に荒ぶる。


「え? なになに」


 それから顔に抱き着き、顔をすりすりされ始める。


「前言撤回ッ。今までのボクは全部なかったことにしてください。地獄でもどこまでもお供します。新居は温泉なんですよね? わぁ、楽しみです。毎日一緒に入りましょう」


「ちょっと、レン……いや、レンちゃん?」


「なぁに、まーちゃん。えへへへ」


 急変した。

 不機嫌そうな顔からへにゃへにゃ顔に。

 声もなんだか甘くトーンが上がった気がする。


「その困った顔、好き。キリっとした目が、好き。サラサラな髪、好き。のどぼとけ、好き。声が、好き。もう全部、好──き」


「お、落ち着け。気を確かに持つんだ!」


 レンはなにかを思いついたかのように「はっ!!」と声を上げ、俺の顔に両手を添える。


「責任取って、結婚してください」


「はいぃ!!??」


「こんなにマジ恋にしたんですから、当然です」


 唇が近づく。

 避けようとしたら、疲れもあるのかバランスを崩し後ろに倒れこんだ。


 俺が寝そべり、レンがのしかかっている体勢になった。

 乗っている場所が良くない、ほんとこの展開は良くない。

 相手の「勝った!」という顔。


「先に既成事実を作っておきますか? ハジメテがお外なんてはしたないですが」


 スカートのたくし上げ、ストッキングと肌のぷにっと境目、絶対領域と縞模様の布がちらりと見えた。

 レンは小悪魔のように自分の唇をぺろっと。


 捕食されそうになっている。


「既成事実ってなにを!?」


「とーぜん、イケナイコトですよ?」


 緊張で呼吸が深くなり、次第にふたりの呼吸が重なる。

 俺の手の平が誤ってストッキングを撫でると「んっ」と可愛らしい声が上がった。


「で、出来るかそんなもん! だって君は〝〟じゃないかぁ!!」


 震えた情けない悲鳴がやまびこのように響き渡った。


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