18.正義の味方のトドメはいつだって
矢が命中したのは
もがき苦しみはしているがゾンビの唯一の撃退方法である脳の破壊は叶わなかったようだ。
その矢を震える手で抜く。
「……わ、わかったわ。私とアンタじゃ相性が悪い。──でもこの男はどうかしら? もうほとんど石化してるけどまだ生きている。完全に石化したら自由に出来るのは私だけ」
倒れている俺を引っ張り上げて宙に掲げる。
人質にされてしまった。
「俺の事は気にするな! 石化してもなんとかする!!」
「出来るわけないでしょ!? なんなのよ、その自信」
精神力だけには自信がある。
どれだけヒーロー鬱回の録画を見返したことか。
「どうせ、お前を倒したら関係なくなる人ですから」
「あら、薄情ね。守ってくれたんじゃないの? 残念じゃない、アンタ。お気に入りのショタに捨てられたわよ。でもがっかりしないで、子供は大人の気持ちなんて分かっちゃくれないんだから」
怪人に同情されている。
嘲笑の方が正しいかもしれない。
レンにとって俺は人質の価値はない。
復讐を遂げたらもう会うことはないだろうから。
たった数日の
「やっぱり石化されるのは困る。俺は負けるわけにはいかないんだ。弱音を吐いた、ごめん」
「……なに言ってんのよ?」
「だから安心して信じろ、レン。俺はなにがあっても君の傍にいるから」
「──……っ」
そりゃ、ひねくれるさ。
家族に置いて行かれた子が新たに大切な者を作るには勇気がいる。
また消えてしまうんじゃないか、と。
だからって、信じる前に諦めるなんて俺が許さない。
「バカみたい。ほんと信頼ごっこなんてなんの意味があるのよ。どうせ、裏切られるのがオチじゃない」
「友を裏切った君が使って良い言葉じゃない」
左手で
「頭突き!?」
その勢いで仮面にヒビが入った音がした。
再び、地面に叩きつける俺。
受け身は取ったがかなり痛い。
「マコトさん。そいつはさっき『石化は解ける』って言ってましたよね。だったらその方法は
矢が射られた。
それは
落ちるラッパは地面で寝っ転がっている俺へと向かってくる。
石化していない左手で掴み。
「や、やめなさい!!」
──思いっきり吹いた。
肩から下へと石化が解けて、身体が軽くなっていく。
気持ちもだんだん楽になる。
もやもやからうきうきみたいに。
「久々の全身自由、キター!」
全力のガッツポーズである。
宇宙に届けこの開放感。
「ただの人間が自由になったところでなんだって言うのよ! 石化が封じられたってゾンビ化させてしまえば──」
右腕の3匹の蛇が俺に噛み付く。
肩、腕、脇。
牙が深く入る。
「マ、マコトさん!?」
「こんな殺し方、私の美学じゃ無いんだけど。ゾンビ化して守ろうとしたショタに殺されなさいよ、それがもっとも──ななな、なんで? なんでウイルスが効いてないわけ!?」
「そんなの俺に聞かれたって分からん!!」
理屈は知らない。
どういうわけだか、俺にゾンビウイルスは効かない。
「だったらそのまま噛み殺すだけよ」
3匹の蛇は俺の身体を縛り上げ、噛む力を強める。
興奮しているせいか苦しくはない。
ああ、両足が熱くなってきた。
右腕を振ると拘束の全てが弾け飛ぶ。
3匹の蛇は頭部を失って、右腕は意識を失ったように地面に落ちる。
「ヒーローキック」
両足で地面を蹴り上げる。
空中で数度回転、からの体勢を整え。
縦一線、全身を貫く。
「〝キック〟と言うよりも〝かかと落とし〟ですよそれ!!」
ポーズを決めているとそんなつっこみが上がった。
「はは、勝ったぞ」
相変わらず爆発はなく、怪人はただ砂となって消えていく。
目に見えない何かが抱き着く。
その透明化した誰かさんの頭を撫でた。
「ありがとう、ございます。無事で、良かったです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます