12.絶対に覗かないでは秘密の香り
「くっさ。……あー、くっさ。この肉臭すぎます」
「仕方ないだろ。
腰につけた巾着には簡単な調味料（塩・こしょう・醤油）くらいしかない。
しかも臭い取りに使うとしても心もとない量だ。
「自分が仮面のせいで食べられないからって料理に手を抜いてませんか？」
「そんなわけないだろ。そんなの命をくれた食材に失礼だし、レンにだって喜んでもらいたい。ここにある物で最善を尽くしたつもりだぞ」
「まあ、意外にくっさい食べ物も好きかもしれません」
目を閉じて肉を口に頬張る。
相変わらず「くっさ」と連呼しているが、表情は柔らかかった。
「マコトさんは大丈夫なんですか？ ずっと食べてませんけど」
「
「
「このウルトラカッコいいコスチュームを破壊しろというのか。君には人の心ってやつがないのかね」
「はいはい、分かりました。心置きなく餓死してください」
呆れたようなじとっとした視線を向けられた。
それからレンは料理の余りである生肉を見る。
俺が食べないせいで渡された分の半分以上の量が残っている。
「捨てちゃうんですか？」
「まさか。保存できるように干し肉にするよ。簡単な作り方なら今持ってる調味料でも可能だからさ」
「マコトさんって、何気に高スペックですよね」
「そうか？」
「鈍くて脳筋かと思いきや、こうやって料理の知識とか。以外に博識です。
「ありがと」
「──といってもボクは見た目が全てなので、イケメン以外を好きになるつもりはありませんので。高嶺の花です。諦めてください。来世に期待を」
「はは、それは残念だ」
俺が微笑むと、適当にあしらわれたと思ったのか口をリスみたく膨らませる。
「マコトさんがボクのだーりんになれないのは当然のこととして、──どう思いますか？」
「ん？ レンは普通に可愛いと思うが」
「違います。いえ、違わないんですけど。あの
「見た目で人を判断しちゃいけないよ」
「人かも怪しいじゃないですか。しかもさっき『私は洞窟の奥でひとりで食事する。絶対に覗くなよ』って言ってましたけど何食べてるんですかね？ 絶対人間とか監禁して食料にしてますよ！ このお肉だって──」
口を大きく開けて、【
声は出ていないが『ギャーッ』と吹き出しが見える気がした。
「安心しろ。ちゃんと
「その根拠は？」
「
「説得力もくそもねぇじゃないですか」
レンは立ち上がり、力強く（といっても平均より弱く）俺の腕を掴み走り出す。
行先は洞窟の奥。
灯りがないせいで進むたびに暗闇が強くなっていく。
それは少なくとも俺たちに見せたくない光景ということだろう。
人間の血をすすっている、なんて展開はないにしても仔羊の血を──……。
どっちにしてもレンにとってはホラーだ。
怪人の見た目で怪人じみた事をしていれば、信用なんて出来るわけがない。
「やめておこう。やっぱり見ない方が良い」
「見なくちゃいけないんです。あの怪人の本性を、だから止めないでください」
「ダメだ。これは君の為に言っている」
「親でも家族でもないくせに！ ボクに指図しないでもらえますか」
洞窟の中をこだまする。
「それでも俺は守ると誓った。命はもちろん、心も。君が傷付くかもしれない事があったら全力で止める。だから戻ろう」
「──……でも」
暗闇で表情は確認出来ない。
しかし複雑な想いで戸惑っているようにも思えた。
〝じゃかりっ〟。
なにかを砕く音がした。
──遅かった。目の前にいる。
食事の最中の
俺は急いでレンを背中の後ろに移動させ、巾着からライターを取り出して着火する。
灯りは弱いが視界が開けた。
「見ぃたぁなぁ」
人間でも仔羊でもない。
想像していなかった物を食べていた。
〝駄菓子やスナック菓子〟。
懐かしいお菓子の数々が山のように盛られていた。
「飴玉、
目をキラキラとさせるレン。
まるでお宝でも見付けた盗賊のようだ。
まずい、とでも思ったのか
「可愛い物は全部ボクのですっ！」
「貴様などにくれてやるわけがなかろう！！ 欲しくば私を倒して──ぐがっ！？」
レンの飛び膝蹴りが見事に
こうして駄菓子の山は小さな盗賊に占領されたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます