幕間 ウシ・ウシ・ウシ!

 まただ。

 また、同じ夢を見ている。


 黒い鉄の雄牛オックス

 黄色い瞳でこちらを睨んでいるのは以前と変わりないのだけど、今回は突進する意思がないようでその場で腰を落ち着かせていた。


 近づけばその理由は察しが付く。

 右の前足が石化していて動きそうにないのだ。

 「おそろいだな」なんて言おうかとも思ったのだが、俺の右腕は存在自体していなかった。

 そういや、前回こいつに持っていかれたんだったな。


 夢だと分かっているからなんだろうけど、まあそんなこともあるか程度で静かに納得してしまう自分がちょっとこわい。


 ──オレを認めよ。

 ──オレを求よ。


 同じ事ばかり、繰り返し。

 随分と承認欲求が強い雄牛さんだこと。


 認めようにもこの雄牛の事をよく知らない。

 見た目が戦隊ヒーローの合体ロボみたいにカッコいいってくらいだ。

 設定も、出生も、目的も分からない。

 

 相手を知る為に近づく。

 残っている左手で頭を撫でようかと思い伸ばそうとしてみるが、それよりも早く黒い鉄の雄牛オックスは首を振る。

 巨大な角が俺の両足を貫く。


 痛みはない。

 まるで俺が霊体であるかのようにすり抜けて行った。


 ──っ。

 しかし次の瞬間、

 というよりも地面に沈んでいったと表現するべきか。


 左手で抑えてなんとか地面に溺れないように堪える。


 あー……まずい。

 夢の中なんだから死ぬことはないんだけど、このままじゃすごくまずい。

 そんな気がする。

 

 ──これは贈り物ギフトだ。世界がオマエに与えた。

 ──鷹岩たかいわ マコト。オマエの叶うはずのなかった願望はここで実る。


 石化した右前足を引きずって黒い鉄の雄牛オックスは進む。

 上半身だけになった俺の前までやってきて、左前足を上げる。

 あ、こいつ……俺の頭を潰すつもりだ。


 力強く振り下ろされる。


 嫌だね、認めない。

 得体の知れないお前みたいな化物を絶対に求めない。

 そもそも俺の夢の中の住人のくせして態度が大きい気がするぞ。

 仲良くなりたいなら、名前と目的、好きなヒーローを教えるのが筋ってもんじゃないのかっ!?


 断末魔がこれじゃ格好が付かないけど、最後に説教しておかなくちゃ気が済まない。

 怒った顔を黒い鉄の雄牛オックスに向ける。


 すると振り下ろしていた左前足は全身事吹き飛ぶ。

 右前足が石化しているせいでバランスを崩した。


 ──……なるほど。部位の〝鉄人化〟は容易いが魂はそう簡単にはいかないか。

 ──しかし無駄だ。いずれはオレを求め、オマエは完全無欠の【鉄人てつじん】となる。

 ──


……。


…………。


………………。



「ゲッ●ァァァビィィィィィィム!!」



 ガバッと。

 あまりの超展開の夢に理解が追い付かず、必殺技掛け声起きをしてしまった。


 洞窟の中。

 隣を向けばレンがすやすやと寝息を立てている。

 俺が黒い鉄の雄牛オックスと戦っていたというのにあまりに呑気である。


 良かった、両足は無くなっていない。

 右腕も石化はしているもののちゃんとある。

 夢だから当然か、安心したら深いため息が漏れてしまった。


「……すごい汗だな」


 背中までびっしょりである。

 洗い流したい。

 全身戦闘服ヒーロースーツのままじゃ難しいと思うけど。


 このままじゃ、レンに「クサすぎ、キモ。近寄らないでください」なんて言われかねない。


 起き上がり、洞窟を抜ける。

 すぐ近くに川があるおかげでなにか起こってもすぐに助けに戻ってこれそうだ。


「こんな時間にどこへ行くつもりだ? 恐竜●国はすでに滅んだぞ」


「聞かれちゃってたか」


「あんな大声で古代の熱線ビーム技を叫ばれたら、流石にな」


「レンは全然起きそうになかったからギリセーフかと思ってたんだけど」


「ふふ、あの娘は眠りに着くと朝まで起きない。わた──きっと家族にいびきがすごいうるさい奴がいて、隣で寝るうちは音が聞こえないようになったのだろう」


「──……そうかもな」


 聞きたいことはいくつかあるけど、背中に汗がつうっと流れた。


「ちょっと汗を流してくる」


「私みたいな怪人と護衛対象を一緒にさせるとは危機感のない奴だな」


「レンになにかしようものなら、秒で駆けつけて君を倒すさ。でも、しないだろ?」


 普通なら絶対にショタコンゾンビである歪曲者パバードとレンを一緒にはしない。

 だけど根拠のない自信があるのだ。


「まあ、ゲッ●ービームで殺されるのはごめんだしな」


「それは忘れてくれ」

 

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