6.新手!対立する別の怪人


「いい加減離してください! もうあの怪人は見当たらないですから」


 担いでいる全身青色の小っちゃいツインテ生き物はジタバタとする。

 言葉通りか見回り、蛇の歪曲者パバードから逃げ切ったことを確認したら地面に下ろした。


「勝手な事を。──逃げなかったら、アイツを倒せてました」


 足を蹴られる。

 全身戦闘服ヒーロースーツの俺にとってはダメージのない攻撃だが、心から怒っているのは分かった。


「倒せてたって。どうやって?」


「そ、そりゃあ。この矢をアイツの脳天に」


「俺でも見切れる攻撃が歪曲者パバードに通用するわけがないだろ」


「貴方が変なんですよ! 普通、飛んでくる矢をキャッチ出来ませんから!! ──っ」


 興奮し、強く俺の膝を蹴った。

 俺にはやはりダメージはない。

 だけど相手は弁慶の泣き所にクリティカルヒット。


「いぎぃ」


「大丈夫か?」


 怪我がないか確認するために足を触る。

 大丈夫だ、今のところ腫れもないし、骨が折れた様子もない。


 しかし見上げて顔色を確認すると、痛みのせいかまた別の理由なのか、泣き崩れそうな顔をしている。


「見ないでください」


「泣いたって良いんだぞ」


「泣き顔は、可愛くないですから」


 ぐすっと鼻をかむ。

 プライドが高いのか、可愛いへのこだわりなのか。


 俺は背中を向けて、おんぶの態勢になる。


「……なんですか?」


「その脚じゃ当分歩いても痛むだろ。それに、おんぶしてたら君の顔も見れないだろうし」


「ボクの可愛い顔を見れなくて残念ですね」


「はは、そうだな」


 背中にぴったりとくっつくのを確かめて、歩き出す。

 やはりカケルの方がお尻の弾力はあるな。

 でもふにっと触れたら帰ってくる……べ、別に尻を触りたくておんぶしたわけではない。


「──……〝レン〟」


「ん?」


「だからボクの名前。一応、マコトさんがただの変質者では無さそうな気がしてきたので」


「そっか。よろしくな、レン」


「〝ちゃん〟」


「レンちゃん?」


 そう呼ぶと満足そうに「ふふん」と鼻を鳴らした。

 ミスター/ミセスのように〝ちゃん〟がレンにとっての敬称らしい。


「ボクの心配ばかりしてますけど、マコトさんも右腕大丈夫なんですか?」


「奴等を倒せる熱線ビームを封じられたのは痛いよな」


「ちょっと何言ってるのか分からないです」


 蛇の歪曲者パバードの特殊能力【石化】。

 その攻撃によって石にされた俺の右腕は未だに治らない。

 治るのかも分からない。


「あの怪人を倒そうにも能力をなんとかしないと。見られたら戦闘終了なんてクソゲーにもほどがあるぞ」


「鏡の盾を作って戦うとかはどうですか?」


「おー、天才。反射させて奴自身を石化させるわけだ」


「自分の能力が効くかは賭けですけど」


 だけど、こんな山奥に鏡なんて──あったな。

 逃げ回っているショタを救助するべく周辺を走り回った時に鏡やガラスが大量に落ちている一帯があった。


「それか──……」


 レンがなにか言いかけて、やめた。


「どうした?」


「あまりにも馬鹿馬鹿しい案なので」


「それでも教えてくれ。今のままじゃ勝つのは難しい。少しでも可能性があるならそれにすがってやろうじゃないか」


「もう1体、この山にはいるんですよ。


 2体の歪曲者パバード

 突然の情報に戸惑う、一瞬レンを担いでいる左腕の力が抜けかけた。


 ……そういえば、俺が矢をキャッチした時に『』とか言っていたような気がするけども。

 怪人は1エピソード1体って相場が決まっているじゃない。

 怪人のバーゲンセールなんて想定出来るわけないじゃない。


「1体目で手を焼いているのに、他もいるのか」


「姿はよく見えなかったのですけど、ボクが蛇の怪人に襲われそうになった時に現れました。たぶん2体は対立関係にあります」


「それはただ、君を取り合っていただけじゃないのか?」


 歪曲者パバードは人間のショタコン(悪)がゾンビ化した存在だ。

 獲物を取り合った可能性はあっても、レンを守ったという可能性は非常に薄いように思う。


「だったら、ボクを使ってその怪人を利用すればいい。蛇の怪人を倒したらボクを好きにしていいって条件で協力させるんです。それで戦わせればどちらも疲弊ひへいする。勝った方をボク等が倒せば良いじゃないですか」


「なんて策士──いや、ゲス野郎の策略じゃない!?」


「へへ、小悪魔的で超絶可愛い天使様がボクの売りなもので」


 レンには悪役の素質があるかもしれない。

 ──おそろしい子……!

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