20.ゾンビ化した世界でショタの理想郷をここに

 俺たちは手の平を合わせて、黙祷もくとうした。


 お墓と言うには貧相で、ただの土ぼこのようなものだけどないよりはマシだろう。

 ゾンビ化した女将さん、避難民、蜘蛛の歪曲者パバード──いや、亜良音あらねが眠っている。


 もちろん脳みそを破壊しないと動き続けるため、火葬してから埋めた。

 蜘蛛の歪曲者パバードに関しては倒して砂に変わったから瓶に入れておいた。


「妹の分まで。迷惑かけたのに、申し訳ないっす」


「気にするな。むしろ肉親を倒した男を憎んでくれたって良い」


「マコトさんが倒したのは蜘蛛の怪人。ショタコン極悪ゾンビであって、私の知ってた妹じゃない。ただただ感謝の気持ちしかないっすよ」


「……それより、さっきの熱線ビームはなに?」


 気まずそうにカケルが質問する。

 シリアスな場面だったから我慢していたが、もう限界だと言わんばかりに。


「病み娘が戦闘服ヒーロースーツに付けた機能だろ」


「いやいや、してないしてない! そんな技術力持ってないっすよ。戦闘服あんなん、ただの重くて硬いだけの代物なんすから」


「じゃあ、マコトは人間じゃないってこと?」


「失敬な。人を光の巨人ウル●ラマン神獣ゴ●ラを見るような目で見ないでくれ」


「どんな目っすか」


「言っておくが俺は紛れもなく人間だ。さっきの熱線ビームは……勘違い。うん、間違いない。興奮しすぎてパンチが音速を越えてそう見えただけかもしれない」


「どっちもどっちなんだけど」


 勘違い、そう思いたいが確かに──出た。

 熱線ビームを出すまでは右手が爆発するくらいに熱かったのだが、今はもう納まっている。


 だけど悪の組織に捕まって改造されてもいないし、M78星雲の宇宙人から命を分け与えてもらったわけでもない。

 身に覚えがない。


「難しい話はやめやめ。カケルを守れたし一件落着。それでいいじゃないか」


「マコトの身体に関わる結構重要な話なんだけど!?」


「想い人の身体を労わるショタ。エロいなぁ」


「黙れ変態ヘンタイ!」


 俺とカケルの声が揃う。

 それを見て余計にニヤニヤする病み娘。


「ええい、疲れたから俺たちは温泉に入らせてもらうぞ」


「戦いによって深まった絆。裸のお付き合い。波打つ湯。──お子さんが生まれたら私にも名前決めさせてくださいっす」


「止まる所を知らないな君は」


 これ以上はカケルに悪影響だ。

 カケルをお姫様だっこで担いで温泉へと──。


「おふたりはこれからどうするんすか?」


 少し寂しげな声。

 振り向くと自信なさげに微笑んでいた。


「カケル君は蜘蛛の歪曲者パバードに追われていたんすよね。だから場所を転々としていたのかもしれないっす。でも倒した。──……ここに留まる理由はないかもしれないっす。だけど、おふたりが良ければ」


「うん。そうさせてもらうよ」


 俺があっさり答えると病み娘はポカンと口を開けた。

 不安だったのか服を握っていた拳が緩む。


「ゾンビが入ってこないように壁もあるし、自家発電で電気にも困らない。なにより毎日温泉に入れる。ここ以上の拠点はない。僕も賛成」


「ただ下ネタはほどほどにな」


「あはは、約束は出来ないっす」


 安堵あんどしたのか大声で笑った。

 笑い過ぎて涙目になってしまっているくらいだ。


「ふふん。妹を監視するために今までは家の中にしか監視カメラを置けなかったすけど、これからは外の情報に目をやれる。ドローンを飛ばせは数キロ先の情報だって手に入るっすよ~。困っているショタを見付け放題」


「なるほど。それは心強い」


「〝椅子の人〟っていうんすよね? おにショタを盛り上げるサポートキャラとしてこれから生きて行くっす。いざショタが安全に健やかに暮らせるマコトさんの理想郷ハーレムの実現の為に!!」


「勝手に野望を掲げないでくれ」


 視線を感じて顔を向けるとカケルがじとっとした瞳で俺を睨んでいた。

 なにを伝えたいのかまったく分からず首を傾げた。


「別に」


「なんだよ。思うことがあるならちゃんと言ってくれ」


「マコトの事だから本当に沢山の人を助けて。ここがにぎやかになっていくんだろうね」


「だと良いな。こんな世界になってしまったけど、俺はやっぱり楽しく正しく生きていたいよ」


 お姫様だっこされているカケルが胸に耳を当てた。

 鼓動でも聞いているのか。


「でも最初に見付けたのは僕だから。絶対誰にもやんない」


 どんな顔をしているのか確認したくて覗こうとしたがそっぽを向かれる。

 唯一確認出来る耳は真っ赤だ。


 随分となつかれたものである。

 俺をゾンビと勘違いしてチェンソーを振り回してきた少年とは思えない。

 なんだか嬉しくなって笑ってしまう。


 そしてカケルのお尻は相変わらずマシュマロのように柔らかかった。






 ──────第1章 スーツアクターと始まりは蜘蛛

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