16.あの回想の後にする話ではないけれど
温泉宿の娘さん2号、病み娘から今までの経緯を聞いた。
女将さんや避難民は既に命を奪われていて、あの愛嬌のある娘さん1号が蜘蛛型の
ここが桃源郷というのは勘違いもいいところで、未だに俺と少年は蜘蛛の糸に囚われたままだったようだ。
「操り人形って。でも皆、生存者にしか見えなかったぞ。話すことも行動もバラバラだった」
「そんなん私に言われたって分かるわけないっすよ。ゾンビウイルスが蔓延する前からこの部屋で引きこもってたんすから。【
「……あのお姉さんが
元々違和感があったのだろう。
動揺している俺と違って少年は腑に落ちたように頷いた。
「でも
「操っている人間をゾンビに変えることも出来るのか?」
「マコトを追放するってなる前の出来事を考えれば、そうなんじゃないかな」
死人を操り、生存者を演じさせる。
まるで能力持ちの怪人みたいだ。
他の
ただでさえ絶望的な存在だって言うのに。
……流石に時間操作とかはないよね。
能力物にはお決まりラスボス能力だけど、そんな奴が現れたらただの一般人の俺ではお手上げだ。
しかも
「話を聞いてひとつ気になったんだが」
「なんすか?」
「『1号・2号ライダーネタ』を振ったらきょとんとしていたのに、『
「あの生い立ちを聞いておいて気になったのそこ!?」
「いや、気になるだろ。あの反応がオタク隠しが目的だったら貴重なヒーロートーク仲間だ。しっかり確認しておきたい」
「ああ、えっと。私、ヒーロー番組は『
「めっずらし。むしろ『
失礼だな少年。
それなりに視聴率はあったんだぞ。
「魅力的な作品なんすよね。特にショタが多く登場するのがたまらんのす。しかも総じてビジュが良い。そしてなにより! 変身前の主人公はショタが嫌いそうな素振りなんすけど変身してスーツに変わった瞬間にショタへの愛情たるや。そのギャップ。敵の攻撃から守ろうと抱きかかえる絵なんてもはや公開セッ──」
「おいおいおいちょちょっ。なに言おうとした?」
急いで少年の耳を塞ぐ。
もしかしてこの病み娘、
「しかもサービス回も用意されててショタが女装してくれるエピソードが何度かあるんすよ! もうあれ変態が集まって作った変態作品っす」
「……『
まるで汚物を見るかのような視線を向けられた。
確かに演者もスタッフも変な人が多かったけど変態までとは──監督に限っては撮影に熱が入るとおかしなことを言っていたかもしれない。
だからといって少年に間違った知識を与えないで欲しい。
正統派ヒーロー番組である。
「特にスーツアクターの人は出演ショタの誰かとデキてます。間違いなく夜のヒーロショーも繰り広げてます」
「デキてるわけないだろ!」
なんだ夜のヒーロショーって。
その手はなんだ拳を丸めて人差し指と中指の間から親指を出すな。
なんかモザイク加工がされている気がする。
「マコト、まさか」
「おい少年、騙されるな。彼女は現実とフィクションを混同している痛い娘だ。真に受けるな」
「あ、でもおふたりも負けてませんよ。昨日の夜、先に寝付いてしまったマコトさんの横顔を眺めるカケル君。(頬もちょっと赤かったかも)。それがそれが。
「硬い物……硬い物」
「少年。なぜ硬い物を探しているんだい」
「記憶を失うくらい頭を殴る」
「死んじゃうよ?」
「もう合体5秒前待ったなしすわ」
「ちょっと黙って!!」
暴走機関車状態の病み娘に跳びかかろうとする少年を制止するために抱きかかえる。
「ふっがー!」とじたばたされる。
「その抱え方。マコトさんってもしかして──『
「なんで解るんだよ!? やだなぁ、この流れで気付かれるの!」
「〝あの〟『
「たぶん君の思い描いているそいつは俺じゃないけどな!!」
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