12.悪夢!魂の黒い雄牛
──……夢を見ている。
とてつもない悪夢なのだがまぶたを強く開こうとイメージしても覚めそうにない。
黒い鉄の
戦隊ものに出てくる変形ロボットの動物、と表現するにはあまりにもいかつく、そして悪魔的だった。
黄色い瞳でこちらを睨み、大砲のような勢いで突進してくる。
立ち向かおうとは思わない。
あんな化物に拳は無意味だからだ。
試してみなきゃわからないって? いやいや、もう試したさ。
そしたらこの通り右腕だけ無くなってしまった。
硬さに負けて壊れたわけではない。
吸収されたというのか、俺の一部位があの雄牛の中に溶けて行った。
とてつもない恐怖。
あの蜘蛛怪人との
この足が止まり、雄牛に追いつかれたら俺の全てが奴に取り込まれて
そんな非現実的な恐怖が胸を刺す。
現実世界で少年に正義の味方ムーブをかましても結局は俺も弱い一般市民のひとりなのだと思い知らされてしまう。
──
──
そもそもゾンビものならば悪夢にはゾンビが出てくるのが定番というか、常識ではないか。
この黒い鉄の雄牛はあまりにも非常識だ。
──
──同化せよ。さすれば
お相手は随分と
まるでオリジナルの正義の味方設定集ノートを押し入れから掘り出してしまった時くらいの恥ずかしさがあるかもしれない。
これが俺の潜在意識とか? やだよ、心の中にこんな悪魔がいたなんて。
……行き止まり。
分かりやすい壁・壁・壁。
──
──
ま、待ってくれ。話せばわかる。
全部夢で、こんな黒い鉄の雄牛は俺の妄想。
だから強く念じれば消えるはず!
しかし雄牛は消えることなく俺に向かって突進してくる。
正義の味方に憧れた
「マコト!!」
ガツンと鈍い音が鳴った。
痛みはあるが、巨大な雄牛に突進されたというよりも石で頭を殴られたような。
「あ……。どうしよう。嫌な音がした。流石にやばい気が」
俺の胸の上に頭が置かれる。
鼓動を調べているのだろう。
「……し、死んでる」
「生きてるから」
むくっと起き上がると少年は安心したように肩の力を抜いた。
「いたた、一体なにがあった。それとも知らないうちに俺は少年の怒りを買っていたのか?」
「違くて」
「なら夜中……それも深夜2時に人の頭を灰皿で殴る理由を聞かせてもらおうじゃあないか」
「だって……だって……」
涙目である。
怒っているわけではない、そこに至った経緯があまりにも分からなすぎるのだ。
凶器に使われた物は温泉宿の部屋に置かれていた大理石の灰皿。
殴ったすぐに放り出してと思われ、部屋の隅に転がっている。
それを拾い上げ確認する。
「──……っ」
灰皿の裏に潰された巨大な蜘蛛。
「なるほど、だいたいわかった」
「がさがさって音がして目を覚ましたらその蜘蛛がマコトの口の中に入ろうとしてたんだ。だからとっさに掴んで投げたんだけど、またマコトの方に向かってきたから、……僕も必死で……。でもごめん。痛かったよね」
「大丈夫だ。血も出てないし、痛みもほとんどなかったさ。少年こそ蜘蛛が苦手なのによく頑張ったな」
と優しく少年の頭を優しく撫でるが、この蜘蛛のデカさは異常だぞ。
そしてどうしてこれが俺の口の中に入ろうとしていた。
蜘蛛嫌いでもない俺でも流石にビビる。
……変な夢を見るわけだなぁ。
「寝るか」
「こんなことあったら眠れるわけがないんだけど」
「じゃあ少年が寝るまで背中ぽんぽんしてやろう。それに俺はこう見えて危機管理センサーが優秀でさ、なにかあったらすぐ起きれる。安心したまえ」
「蜘蛛怪人の時も、今も熟睡だったけど?」
「それはそれ、これはこれ」
少年は文句言いたげにこちらを眺めるが諦めたようにため息をついた。
それからベッドに戻る。
身体の隙間が無くなるくらいに密着してくる。
「ねえ、マコト」
「んー?」
「この温泉宿。あまり長居しない方がいいと思う。なんだかすごく嫌な気がするんだ。ずっと見られてるっていうか。明日にでも、ここから出て行きたいかも。そしたらさ、ふたりだけの安全地帯を作ろうよ。賑やかなのも良いけど、……僕はマコトだけいてくれたら」
すやぁ。
「お前が先に寝るんかい!!」
寝落ちしたら顔面ぐーぱんを食らった。
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