7.怪奇!蜘蛛の腹の中
山はゾンビの数が少ない。
ゾンビは生前の生活規則通りに徘徊することが多いと思われる。
だからと言って山が安全というわけではない。
ゾンビウイルスを境に野生動物が昔とは比べものにならないくらいに増えている。
熊は言うまでもなく、動物園から脱走した肉食獣などだ。
よって少年を膝の上に乗せて木の上で眠ることにした。
木登りが得意な肉食獣もいるだろうけど木が揺れたら違う木に飛び移って逃げれば良い。
ゾンビはそもそも木に登れない。
つまり、ぐっすり眠ってしまっても構わんだろう。
「マコト! 周り!!」
少年の焦り声によって目を覚ます。
事情を聴かなくともすぐに理由は分かった。
──〝蜘蛛の巣〟。
蜘蛛嫌いの少年なら小さい物でもこの慌てぶりにはなりそうなものだが、規模が違う。
少なくとも半径100メートルはあろう蜘蛛の巣だ。
目を閉じた時とはまったく違う。
そこら中に蜘蛛の糸が張り巡らされている。
しかもこの糸の太さ、蜘蛛はかなりの大きさだ。
人間がいなくなったことで独自の進化をした蜘蛛とか?
「あいつだ。……逃げないと……でも」
足りない頭で考えても答えは出ない。
まずは怯えている少年を落ち着かせるのが先だ。
「深呼吸してくれ。あいつとは誰の事だ?」
「……避難した学校を襲ったゾンビだよ」
「ゾンビが、この蜘蛛の巣を?」
「あいつは他のゾンビとは違う。ゾンビの上位種【
しかしその性質が世間に公表される前にこの日本は終わってしまった。
蜘蛛の糸を張り巡らせる能力?
疑問ばかりが頭に浮かぶ。
「褐色ポニーテールのショタくーん! お姉さんが助けに来たよー。このミラクルナイスバディな胸元に飛び込んできてくれて良いんだよー」
この不気味な空間には似つかわしくない可愛らしい声が響いた。
それと同時に少年の身体が石像のように固くなる。
恐怖のあまりか瞳に涙がにじんでいる。
間違いなく、この声の主が少年の宿敵の相手。
よって俺の敵である。
「かくれんぼだね。どこかなー」
見つからないように息を殺そうとしたが敵の容姿を確認して声が漏れそうになった。
な、なんだあれは!?
『恐怖!! 蜘蛛怪人現る!!』である。
あまりに見慣れた光景(?)すぎてタイトルテロップまで見えてしまった。
デザイナーは誰だ。
韮●靖先生。篠●保先生。寺●克也先生。
それともH・R・ギー●ー先生だろうか。
いやしかし、ヒーロー番組の怪人にしては手足が長すぎる。
あれではスーツアクターはバランスを取るのが精一杯でアクション出来ないではないか。
……本来であれば支えなしでは動けないはずだ。
「どうやって自立しているんだ」
「え、第一印象そこ?」
「あんなにバランスが悪いデザインなら歩くのでやっとじゃないか? 走って逃げれば」
「ううん。かなり早いよ。絶対に追いつかれる」
策なしでは駄目だ、と強い視線で否定された。
少年はかつてあの蜘蛛怪人に襲われている。
恐ろしさは誰よりも理解しているのだろう。
「わからないなー、こっちかな。それともこっちかな」
居場所が分かっていないようなことを言いながら着実にこちらに近づいている。
……バレている。
野生動物に匂いで見つからないように泥などを身体に付けた。
寝床にした木には枝も葉も多い為外から姿を確認するのは難しい。
すー、ふー……。
すー、ふー……。
少年の吐息。
言われた通り深呼吸で冷静を保っている。
……蜘蛛の巣。
少年の小さな口から吐息が漏れると近くの蜘蛛の巣が旗のように揺らめく。
その揺らめいた旗に小さな糸が延び振動を伝える。
なるほど。
俺たちは今、あの蜘蛛怪人の腹の中にいる。
いくら隠れようと場所は把握されてしまう。
「少年。俺が合図を出したらすぐに逃げろ」
「え?」
少年を木の枝に置き、ひとりで地面に降りる。
すぐに蜘蛛怪人と(いくつもあるし、黒目が無い為確かではないが)目が合った。
「どなたさま。……あー……もしかしてお兄さんがSSRランクショタを独り占めしようとしてる
「なにを言っているのかさっぱりだな」
だけど会話をする知性はある。
しかも単独行動。
つまり他のゾンビとは違い〝俺は良いから先に行け作戦〟は通用する。
目の前にはこの世の者とは思えない怪物。
普通なら足が震えて動けないかもしれない。
けれど俺は、こんな光景を何度も目の当たりにしてきた。
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