5.スーツアクターの守り方
──考えろ。
この危機を打破するために最適な行動はなんだ。
その直後、地鳴りのような無数の足音と共に
少年を背負って逃げるか。
──いや、
俺だって肉体能力には自信があるが少年を背負いながらとなると速度は気合でどうにかするとしても小回りが利かなくなってしまう。
俺がおとりになってゾンビたちの注意を引けば、──考えるまでもなく論外だ。
無視され少年を追いかけるに決まっている。
少年の顔を見ると『もうダメだ。おしまいだ』とでも言いだしそうに青ざめていた。
そもそも音が出る武器ってゾンビパニック物には不向きでは?
ゾンビ形体でチェンソーを武器にするヒーローもいなくはないけど、あれはゲームで定番になっているチェンソーゾンビからの着想だろう。
「グルルル……」
一匹目がバックヤードに侵入してきた。
ごちゃごちゃと考えるのはやめだ。
選択肢はいつだって【>ガンガンいこうぜ】一択。
戦うのなら仲間がぞろぞろと集まってくるような開けた場所よりもここみたいに狭い場所の方が順番に相手が出来る。
つまり地の利はこちらにあり。
「怖いだろうけど、隠れて待っていてくれ」
「うぇ!? ちょ、マコト。だからどこ触って」
少年を持ち上げて在庫棚の一番上に乗せる。
固定されているため下から揺らされてもすぐには崩れることは無さそうだ。
「ゾンビは全部倒すから。少年は応援よろしく!」
「いや、バカっ! 無理に決まってるだろ」
「無理なもんか。俺は〝正義の味方〟のスーツアクター
「……スーツ……アクター?」
ぴんと来てないご様子。
そりゃそうか、子供がスーツアクターの存在を知っているなんてサンタさんの正体を知るような物なのだから。
だから俺も教えない。夢を壊すなんてもってのほかだ。
空中にいる敵には高めの回し蹴りをおみまいだ!
一発で沈んだ。
正しくは直撃した頭が吹き飛んだ。
ゾンビは生前よりも体がもろくなっているのだろう。
「ヒーローキック」
人差し指を天に掲げ決めポーズ。
「……つよぅ」
絶望の表情をしていた少年だが驚きのあまり口をあんぐり開けている。
ドン引きされているような気がするのだが気のせいか。
「ヒーローパンチ。ヒーローチョップ。ヒーロー投げ。ヒーローかかと落とし」
「頭に『ヒーロー』付けただけで普通の攻撃じゃん!」
突進してくるゾンビを次々に倒していく。
「──大切断!!」
「必殺技っぽいけどただのジャンプチョップ!?」
勝った。
圧勝と言ってもいいかもしれない。
相手は戦闘員ほどの強さだったが数が多かったため、かなりの大立ち回りをした。
肩で息をしている。
これは決して歳のせいではない。
数年前でもぜぇぜぇ言ってる。むしろ白目を向いて立ったまま気絶していたかもしれない。
静かになったから在庫棚に乗っけていた少年を下ろす。
「マコトって本当に人間?」
「ここはもうダメだ。拠点を別に移そう」
「ねぇ、人間?」
当たり前じゃないか。
まあ、改造人間だったことはあるな。──ヒーローの設定で。
それにしても狭い空間でゾンビを倒し過ぎたせいで足場がない。
仕方がないから少年をおんぶして進む。
「持っていくものはあるのか?」
「別にない。武器のチェンソーくらいで良いよ」
必死にここまで逃げてきたそうだから私物を持っていく余裕がなかったのかもしれない。
だからって唯一の所持品がチェンソーって。
「スーツアクターって、着ぐるみとかヒーローの恰好をして動きの演技する人の事でしょ?」
「…………知ってたか」
「前、特番で紹介されてた」
「なんて夢のない番組だ。抗議するべきだな」
「もうテレビはどれも映らないから必要ないよ」
「そっか。……悪いな。正義の味方の中の人がこんな冴えない男でさ」
「別に。……(普通にカッコいいと思うし)……。そもそも僕、ヒーロー番組とかまったく見たことない」
「今なんて?」
「へ? あ、聞こえて──」
聞き捨てならない。
そんなことがあってたまるか。
どういうわけだか少年は顔を赤らめているが、気にする余裕はない。
「ヒーロー番組は子供の必修科目だろ」
「知らないよ」
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