1.ゾンビの世界!宿命を背負いし男

 ヒーローショーを行っていた遊園地で〝ゾンビウイルス〟がまかれてから1年が経つ。


 日本の現状はと言うと──

 見渡すばかりゾンビの群れである。


 連日、テレビやSNSではウイルスの報道がされていたが次第に放送する局もなくなり、最終的には全てのチャンネルがつかなくなった。


 なんの専門家かは忘れてしまったが、TVに出ていたその人曰くゾンビには種類があるそうだ。


徘徊者ウォーカー】──永遠に散歩し続けるゾンビ。人間などの生物を襲うことはない。腐敗は進んでいくが空腹で倒れることはない。


捕食者イーター】──人間を襲い、時に食料にするゾンビ。個体によっては全速力で走ったり、障害物を飛び越えたりする。


 共に頭を失えば行動不能になる。

 見分け方は目の色で、前者は白、後者は赤。


 他の性質を持つゾンビも確認され、解明次第情報を提供すると言っていたはずだが、それは叶わず現在にいたる。


 ゾンビウイルスは空気感染はほとんどしないらしく、接触感染によって感染者を増やしていった。

 噛まれてしまった時にはなすすべなくゾンビ化してしまうそうだ。


 そうしておそらく、日本国民は全員、俺を差し置いてゾンビに変わり果ててしまったのである。


 「あー、もう弁当系はダメだ。缶詰やらカップラーメンだけだなぁ」


 前回のが、俺にとっての最後の弁当ファイナルベントってか。

 やかましいわ。


 元ヒーロー番組のスーツアクター鷹岩たかいわ マコトはコンビニエンスストアを渡り歩いていた。ショッピングモールなどでも良かったがゾンビたちの巣窟に変わり果てている。


 どういうわけだか、俺だけゾンビ化しなかった。

 ゾンビの大軍から逃げきって無事というわけではない。

 襲われてもいないのだ。

 捕食者イーターですら俺を素通りといった感じで。


 仲間とでも思われているのだろうか?

 そんなに顔色悪いのかな……。


 一度、襲われていた親子を助けようとしたときに噛まれたりひっかかれたのだが──それでも身体に変化はなく。ゾンビ化しなかった。


「食料も少なくなってきたし、そろそろ違うコンビニに移ろう」


 1カ月も経てば、食べられる物はそこを着く。

 カバンに入るだけ天然水のペットボトルとカップラーメンを詰め込む。

 それに下着。髭剃り。汗拭き。


「よっと」


 固くなった入り口を頑張ってこじ開ける。

 カーテンを全部閉めていたせいか、朝日が目を突き刺す。


 あれからたった一年だが、景色は大きく変わった。

 植物は元気に育ち、動物は都会だろうと構わず現れ、まるでコンクリートとジャングル。

 皮肉なことに、人間が消費をやめたおかげで地球は潤いを取り戻しつつある。


 そこにゾンビがいなければ神秘的な光景だと思う。


 行く当てもなく彷徨う徘徊者ウォーカーたち。


 獲物がほとんどなくなったせいで飢えて干からびている捕食者イーターたち。

 地面に伏して死んでいるように見えるが近付けば、裏っ返しになっているせみみたく襲い掛かってくることだろう。


「ちょっと前失礼しますよー」


 俺だけは例外のようで身体を飛び越えようと反応はない。

 最初は不思議でしょうがなかったが、もう慣れてしまった。


 幸運なことにゾンビウイルスへの耐性があったのだろう。

 ただ、最後のひとりになった今ではそれが『幸運』と呼べる代物かは分からない。


 楽しみと言えば知り合いに会って挨拶するくらい。


「あ、司会のお姉さん。お久しぶりです。……徘徊者ウォーカーですか。足に気をつけてください」


 ペコリとお辞儀する。

 相手からの返事はもちろんない。


 ボロボロな服で返り血まみれの司会のお姉さんの背中を見送った。


「よし。ここだな」


 数百メートル歩くと新しい拠点になるコンビニエンスストアに到着する。

 電気はもちろん付かず、植物の枝で覆われてしまっていた。

 ゾンビが入ってこないように入り口はちゃんと占める。


「食料、食料。沢山あるかな。……あら、結構少ない。以前ここにいた生存者が拠点にしてたとか?」


 食品コーナーを座って眺めていると影が差す。

 エンジン音のようなものが聞こえた。



「死ねゾンビ!!」



 視界を向けると、ポニーテールの子供がチェンソーを振り上げていた。

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