第16話 怨霊が出てこない裁判
「……それは本当なの?」
マローナは暫く沈黙した後、僕の方を向いて聞いた。
僕は何も言わずに小さく頷いた。
これにマローナは何とも言えない悲しげな表情を浮かべた後、兵士に「彼女を連行して」と言った。
兵士何人かが「ハッ!」と敬礼し、母の両手を縄で縛った。
「あなたがした事は決して軽い罪ではない。覚悟はできている?」
マローナは威圧的な目つきで、お縄になった母を見た。
母は「……覚悟の上です」と小声で言うと、兵士達に連れられてしまった。
「母さん!」
僕は駆け寄ろうとしたが、マローナに止められてしまった。
「あなたも重要な証言人だから来てもらうわよ」
そう言うマローナの瞳が少しだけ歪んでいた。
母の裁判は秘密裏に行われた。
王都に近い場所にある裁判所には、マークシャー家の関係者が勢揃いしていた。
と言っても、姉五人とメイド長ぐらいしかいなかった。
姉達もマローナ同様、変わっていた。
ミャーナは『ミャーラ』という名前に変わり、ムーナとメローナは制服を着ていた。
みんな顔が沈んでいた。
それは僕も同じだった。
僕は事件の重要証言人として、被告人席の側に座らされていた。
もちろん、母だ。
母は昨日に比べてやつれているように見えた。
眼はくぼみ、顔全体に陰が差していた。
牢屋に入れられたという話は風の噂で聞いたけど、その影響によるものかもしれない。
何か一言でも声をかけようと思ったが、どんな事を言っていいのか分からなかった。
そうこうしているうちに、裁判長達が入ってきた。
裁判長は口元まで覆うほどの老人だった。
裁判員は中年の男女が数名。
彼らは正面に置かれた細長いテーブルに座ると、裁判長が声を上げた。
「では、これより裁判を始める」
この一言により、辺りに緊張がはしった。
「マーナ公爵婦人、前へ」
裁判長の言葉に母はハイと覇気のない声で立ち上がり、一歩前へ出た。
「では、マローナ騎士団長、被告人の罪状を述べよ」
裁判長にそう呼ばれ、マローナがハッと覇気のある声で前へ出た。
「マーナ・マークシャー、彼女は王国で定められた禁書の所持並びに使用し、エルーラの元国防大臣を召喚させ、美酒を不法に入手しました」
マローナが言い終えると、裁判長が「間違いありませんか?」と聞いてきた。
母はコクリと頷いた。
「屋敷で勤務しているメイドからの証言によりますと、被告人は美酒を使って自身を若返らせ、貴族や王族とパーティーを開いたとのことです。
この事から、被告人は私欲目的による犯行だと考えられます」
マローナは淡々と昨日母の言った事を纏めて証言した。
裁判長はさっきと同様に間違いはないかと確認すると、母は頷くだけだった。
裁判員が顔を近づけて、ヒソヒソと話していた。
裁判長は次に僕を証言台に立たせた。
「君、名前は?」
裁判長にそう聞かれたので、僕は「カースです。マークシャー家の長男です」と礼儀正しく答えた。
裁判長は「カース……ほう、マークシャー家の……」と何か思いあたる節があるのか、蓄えた髭をワシャワシャと触っていた。
「君がエルーラの元国防大臣と最後にいた人物で間違いないね?」
「はい、そうです」
「では、大爆発が起きる前までの経緯を話してくれるかな?」
「はい」
僕はマローナに話した時と同じように話した。
裁判長はジッと耳を傾けた後、下がってよいと言われた。
何か質問があると思って身構えていたから、あっさりと終わった事に目を丸くした。
裁判長が席を立ち、裁判員達と一旦出て行ってしまった。
しかし、そう遅くはならずに戻ってくると、裁判長がコンコンとハンマーを鳴らした。
「マーナ・マークシャー」
裁判長が威厳よく言うと、母はハイと言って立ち上がった。
「被告の犯した罪は許しがたい。よって、爵位剥奪と非公開処刑とする」
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