第17話 そういえば怨霊はどこに行ったのだろう
これに姉達がざわついた。
「爵位剥奪って……マークシャー家が無くなるっていう事?!」
ミャーナが声を上げると、メローナが「そうね」と冷静に返した。
僕は目を見張るばかりだった。
終身刑でも罰金刑でもなく、死刑を言い渡されたのだ。
そんな大罪を母は犯してしまったのだろうか。
本来であれば、僕が罪を
非公開処刑――ん? 非公開処刑?
処刑といえば、国民などの大勢が見ている中で処される場面が思い浮かぶが、それは『公開』処刑で、『非公開』処刑だと部屋みたいな所で執行されるのだろうか。
ふとそんな事を思いつつ隣を見た。
死刑を言い渡されたはずなのに、母は絶望に打ちひしがれるどころか、毅然とした態度をとっていた。
子供の前で無理をしているようにも、覚悟を決めているようにも見えた。
「ごめんなさい」
声を震えながら言った。
母は「あなたのせいじゃない」と小声で返した。
裁判長がハンマーを数回叩き、場を鎮めた。
「処刑の日時や場所、処刑方法は非公開とする。なお、爵位を剥奪されたマークシャー家のご家族に関してだが……マローナ騎士団長」
「ハッ!」
裁判長に名前を呼ばれたマローナは姿勢正しく起立し、ビシッと敬礼した。
「マローナ騎士団長は数々の功績を称え、国王様から新たな領地を与えてくださるという一報を小耳に挟んだのだが、本当か?」
「はい。裁判長の仰る通りです。王都から北にある領地をいただきました」
「北……カーメラーか。ふむふむ、カースにとっても都合がいいな……では、こうしよう」
裁判長はコホンと咳払いをした。
「マローナ・マークシャー騎士団長、今後『カローナ・カーメラー』として北の領地を統治する事を命じる」
どういうことだ。
つまり、マローナが貰った領地の名前が『カーメラー』だから、その地の名前を名字にしろと。
さらに名前の最初の部分を『マ』から『カ』にしろと。
よく分からないが、とにかく新しい名前で頑張れっていう事なのだろうか。
確かに今のままの名前で生活するのは苦しい。
けど、まるっきり無くなってしまうのもどうなんだ。
アレコレ考えていたが、姉達は一切異議を申し立てる様子もなく、人形のように黙って立っていた。
「では、これにて閉廷」
裁判長がカンカンと鳴らすと、兵士二人が母を連れて行った。
「母さん!」
裁判長が下した判決を思い出した僕は、これが母との永遠の別れだと直感し、駆け寄ろうとした。
が、他の兵士に阻まれてしまった。
「母さん! 母さん!」
僕は声を張り上げたが、母は一切僕の方を振り向く事なく、行ってしまった。
母の姿が見えなくなってしまった途端、一気に力が抜けてしまった。
あぁ、行ってしまった。
行ってしまったんだ。
僕の罪を全部被って、母は行ってしまった。
「カース」
誰かが僕に呼びかけていた。
チラッと見ると、メローナだった。
「大丈夫? おしゃぶり付ける?」
そう言うメローナの手におしゃぶりが持っていた。
精神を落ち着かせるための優しさなのだろうか。
だけど、今の僕はとても赤ちゃん返りする気分ではなかった。
「ありがとう。でも、一人で考え事したいんだ」
僕はそう言うと、メローナは「そっか」と少し悲しげな顔をした。
僕はトイレに向かった。
個室が三つぐらいある中、真ん中を選ぶ。
便器は洋式だった。
普通に腰を掛け、用を足した後、便器の隣にある紐を引っ張った。
すると、水と共に底が開いて流れて、管を通して川に流れるというシステムだ。
水鉄砲の魔法でお尻を綺麗に洗い、風の魔法で乾かした後、ズボンをはいて外に出た。
鏡が連なっている洗い場に生き、石鹸と同じ効果を持つ植物でゴシゴシ泡立てる。
ふと脳裏に最後にビーラと交わした約束を思い出した。
明日、僕はビーラと呪いに詳しい人に会う予定だった。
でも、実現する前にヤツに殺された。
という事は、ヤツはその人物に合わせないようにビーラに襲い掛かったのではないだろうか。
あの戦闘の時も光魔法が苦手だったようだし、そのおかげでヤツを倒す事ができたのだ。
ビーラの犠牲を払って。
僕の頭の中には、グルグルとビーラと母との思い出が脳裏を過ぎっていく。
こんな短期間で二人も命を失うとは、何と重苦しい現実だろうか。
転生する前は漠然としか覚えていないけど、こんな事は無かった。
それも全部ヤツのせいだ。
けど、もういない。
悪夢は去ったんだ。
そう安心して水で泡を落としていた時、鏡に写る景色に目が行った。
何か違和感があった。
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